4.魔王様こっそりはめられました

結局、シンデレラの配役はその日の内に決まっていた。


砂糖さんはもちろんシンデレラ。來哉はネズミ、斎藤は魔法使いなどなど...。俺は來哉の推薦を断れず、王子役に抜擢されてしまった。


「ようおはよ、王子様役の真人く〜ん?」


一人教室で計画書と睨み合いを決めていると、ニヤけた顔で來哉がやって来た。確実に世界一キラキラした役が似合わない自信があっただけに昨日も家族みんなに言うことはできなかった。愛田として学校にいるレイラがみんなに言う訳もなく(本番まで秘密にしたいらしい)、一人なんとも言えない恥ずかしさだ。


「よかったな〜砂糖さんと恋に落ちれるぜ。ほんっと羨ましい限りだよ〜。」


「語尾のばすのやめろよ。別にお前が変わってもいいんだぞ。」


ただでさえ学級委員で前に出なければいけないのにここまでやらされるとは...。ましてや本番あいつらに見られると思うとなあ。


「俺は砂糖さんを励ます役に徹するのみだぜ!そもそも劇だけが体育祭じゃないしな。クラス全員リレーのが俺は燃えるぜ。」


劇があるという点以外はこの学校の競技種目はいたって普通だ。運動部からしたらここらへんが女子へのアピールポイントだから力を入れるはずだが、來哉はそういうのは眼中にないようだ。


「うちのクラスには陸上部もいるらしいからな。まあせいぜいお前は王子様かっこよく決めとけよ。」


「そうも言ってられないんだ。今日のLHRは種目決めなんだよ。結局運営でこき使われるんならあの時寝てなければよかったな。」


砂糖さんと距離縮められるのはいいけれど、結局のところデメリットのがとてつもなく多い。砂糖さんも真面目だからLHR以外は話すことはほぼないし、


「それこそ真人が砂糖さんに計画書練るとか言って放課後誘えばいいのになぁ。」


そうそう、って


「えっ!!そ、そそそんなの無理に決まってるだろ!ふざけたこと言うなよな。誰が砂糖さんとででデートなんて。」


「誰もデートとまでは言ってねえだろ。ほんとおもしれえな真人は。砂糖さんが鈍くてよかったよな。あっチャイム鳴っちった。やべえやべえれいちゃんが来る。」


バシン、と來哉の頭にバインダーが落ちる。


「先生をちゃん呼びはやめなさいと言ったでしょう?おはよう桐ヶ谷くん近藤くん。」


「おはよう…愛田先生。」


最近はこのやりとりが日常になりつつある。遠くの方で砂糖さんも笑っていた。



ーーーーーーーー


「えーっと、今日は普通の方の体育祭の種目を決めます。」


今回は砂糖さんは書記にまわっていた。俺はとりあえず書かれていることを話していく。俺たち一年が出れる種目はクラス全員リレー、綱引き、台風の目、騎馬戦(男子)、棒引き(女子)、徒競走、クラス別リレー、そして学年競技の借り物障害物競走だ。クラスの人数は30人なので少しずつ人数を組む。


「とりあえずそれぞれ出たいところに手を挙げてもらってどこか被ったらじゃんけん、人数大丈夫なところは決定方式でいいかな?少なくとも一人二競技は出てほしいから一人二回挙げてください。」


人数多めのものはすぐに決まっていく。しかし、


「うーん、やっぱり100m徒競走とクラス別リレーは決まらないね。」


砂糖さんが苦笑している。女子も男子も決まらない。というか誰も決まっていない。三人ずつ合計十二名分必要なこの枠はどうしようか。俺たちのクラスはどうやらあまり個人競技が好きじゃないようだ。


「私たちが埋めたとしても二人分枠が余っちゃうもんね。」


げっ、俺も走るのか。砂糖さんが言うのならしょうがないが。


「桃胡と桐ヶ谷くんが走るなら私と近藤も走るよ。」


そうきっぱりと発言したのはまたもや斎藤さん。彼女はバスケ部、なんとも頼もしい。


「えーっ俺もかよ!まあいいけどさあ。」


口笛を吹かしながら來哉は言った。


「みんなはー?早く決まんないと真人と砂糖さん大変なんだよ?一瞬じゃん、決めちゃおうぜ?」


その言葉から俺も私もと次々と声が上がる。來哉が学級委員のが良かったんじゃないのか。クラス別リレーの男子一枠以外はあっという間に決まり、とりあえず後は個別でお願いすることになった。




ーーーーーーーー



放課後、帰ろうとしていた俺と來哉に砂糖さんたちがやってきた。


「さっきすごかったね。ありがとう近藤くん。」


「いやいや、砂糖さんのためならなんでもしちゃいますよ。」


誰とでものびのびと話せるこいつは本当にすごいと思う。俺はというとわかりやすいくらい砂糖さんの前で硬直している。


「桐ヶ谷くんのためでしょう?」


「へ?」


「お友達のためにそういうことできるの本当にすごいと思う。本当に助かったし、あとは私たちに任せて。」


にこっと笑うその笑顔、尊い...。


「來哉もだけど、斎藤さんもありがとう。本当いつも助けられてるよ。」


そう言うと斎藤さんは少し耳が赤くなりつつも「別に、普通のことだよ。」とそう返した。


「あっそういえばさっき言おうと思ってた話なんだがな。俺リレー枠のおすすめに心当たりがあるんだ。」


唐突に話し出した來哉は目線をうつす。

奴の目線を追うと一人ぼーっとバナナオレを飲みながら外を眺める男がいた。


「国見徹(くにみとおる)、中学の時俺の学区内で一番有名だったやつだ。みんなの時に言うとそのままやれやれってなるだろ。それは単なる押し付けだからな。あくまで、聞いてみてくれよ。多分高校でも陸部みたいだからな。じゃあ俺は部活だから。」


じゃっと手を振りそそくさと走り去っていった。お前はスーパーヒーローか。


「ごめん桃胡、私ももう行かなきゃ。じゃ…頑張ってね桐ヶ谷くん。」


そう言う彼女は口角が少し上がっていた。こいつ!わかってやがったのか!

しばらくの静寂の後に砂糖さんが口を開く。


「じゃあ私たちで頑張るしかないね。桐ヶ谷くんこの後空いてる?」


はめられたように感じるこの放課後タイムは砂糖さんの笑顔によって掻き消されてしまった。

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魔王だけど魔法少女(きみ)になら負けてもいい おきたくん@沖野聡大 @okitakun

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