3.魔王様魔法少女と遭遇します

その日の帰り道、夕日が今にも落ちそうな反対側の空は真っ暗なそんな時間。誰かからの視線を感じながら、俺は帰る。來哉は部活があるためいつもいっしょに帰れない。普段はもっと早く帰るのだが、体育祭の期間はとても難しい。


「...はあ。」


確かに俺は疲れているし、今は丸腰だ。だがこんなにもわかりやすく視線を相手にぶつけるのは敵としていかがなものだろう。瞬間背後から何かの切っ先が自身に向かってくるのを感じ、ゆるりと避けた。確実にすごい速さで距離を縮められている。


カキーンッ!!


その音とともに振り返るとそこにはフリルを身にまとった少女とそれに応戦している紅がいた。紅が殺気を帯びながら少女に質問する。


「貴様、この方を誰と心得ての所業か?答えによってはただでは返さんぞ?」


その殺気に対し、少女はハートのついた棒に力を込めることで引きをとらせまいとしている。しかし、紅はまさかの葱で応戦していたため見ているこちらからしたら滑稽だった。


「ふっ、誰と心得てですって?そちらこそ私の事誰だかわかっての行動ですの?」


高飛車な女は苦手だ。こんな時にも砂糖さんを思い浮かべてしまう俺は本当に疲れている。


「私は一人目の魔法少女チェリー!降参しなさいバケモノ!」


「「っぷ!」」


俺と紅は笑い出す。


「主、聞きましたか?この者、ものすっごい日本人顔なのにチェリー!ですって。」


「やめてやれよ。本人だって真剣なんだろ?きちんと相手してやれ。」


そんな会話をしているとみるみるうちに少女の顔が赤くなり、しまいには、


「覚えてなさいよー!」


と、あのばいきんにも負けないスピードで消え去っていった。どっちが悪なのかわからないな。



ーーーーーーーー



「...てことがあったんだ。」


家につくと紅の説教が始まった。なんだなんだと世話係が募って俺の話を聞く羽目になった。


「でもよかったッスよ。紅が出たおかげでぼっちゃんが直々に手を出さなくてよくなったんスもんね。さすが護衛係っスわ〜。」


そう言うのは狼男の若頭コハクだ。現在は俺の兄桐ヶ谷琥珀(きりがやこはく)として花屋を営んで暮らしている。


「本当よかったです、ぼっちゃん。紅が葱で応戦というのは、微妙ですけど。今度遭遇した時は私をすぐさまお呼びくださいね。」


お淑やかに着物を靡かせるのは和とは程遠い魔女のアルタリア。彼女も俺の従姉妹、花宮(はなみや)リアとして琥珀と花屋を営んでいる。


「全く、魔法少女に出会ったというのになんという態度です。紅も最善を尽くす気はあったのか?ぼっちゃん、特徴などは覚えていないのですか?今すぐに先代様にご報告するべきです。」


この一番口うるさい二枚目はインキュバスのイノセント。レイラの旦那だ。父に一番信頼されている部下で最高指揮官をしている。インキュバスだがくそ真面目すぎて俺もしんどい。ほとんど魔界にいるがごくたまに愛田伊乃(あいだいの)としてレイラとともにいる。


「まあ一応みんなに報告ってだけだ。まだ特に何もやられていないし、多分あの様子じゃ三下以下だろうな。」


今ここにいるのは俺と紅、その三人をいれて五人だ。レイラは教師としての仕事がまだ終わっていない為、隣の愛田家で仕事を片付けている。


「...ですが主、聞いておりましたか?あやつは一番目の魔法少女と申しておりました。」


「やはり、ですわね。イノセントの申していた通り、天界は魔法少女を量産しているのかもしれませんね。」


「ああ。今までは魔界軍の足止めのみに力を発揮していたらしいが、ぼっちゃんが降りたのを知ったのだろう。これからますますぼっちゃんの命を狙いにくるでしょう。」


たくさんの魔法少女が俺の命を狙いにくる?


「そんなの、大したことないじゃないか。」


そう言うとみんながため息をついた。


「ぼっちゃんには事の重大さ、自分の存在の大きさにいい加減気付くべきっス。」


「ぼっちゃんはご自分の命は顧みない方ですからね。」


少し考えてから、紅が口を開いた。


「こう考えると少し変わるかもしれません。今まさに人間界における主の弱みは砂糖様です。それを天界のやつらが知ればみな砂糖様を人質にするでしょう。」


ボォォォ...


その言葉、そのことを想像してしまった。するとどうだろう今まで語り合っていた卓のテーブルが青い炎に包まれ、燃え散った。


「...無自覚ですか。まあとにかく魔法少女をどうにかなさらない限り、砂糖様まで危険な目に遭われます。どうかそこだけは心に留めておくように。」


では解散!とみんな散り散りになっていく。夕方の女が砂糖さんを...。考えるだけで消し炭にしてしまいたい。そう考えてしまうのは何故だろう。


俺は本格的に魔法少女対策に取り掛からねばならなくなった。

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