2.魔王様係決めをします
朝顔が少しずつ咲き始める。早朝にも関わらずエプロンをかけた紅は水やりをしていた。
「朝から精が出るな。俺は用があるから少し早く出るぞ。」
そう声を掛けると一瞬驚いた彼だったが、すぐに笑顔で応えた。
「おはようございます主。少々お待ちください。お弁当をお待ちしますね。」
この愛らしい少年が自分よりも年上で、父の直属の部下だと思うと驚きを隠せない。人間界の頑張るお母さんたちに負けない可愛く包まれた弁当箱を彼は持ってきた。
「体育祭の集まりでございますか?」
俺の体育祭は少し不思議なルールがある。学年やクラスぐちゃぐちゃで赤、青、緑、黄色に分かれて行う...そこまでは普通だ。最終種目として集団演技があるのだ。それぞれ生徒会と学級委員は衣装を着て、ダンスを踊る。今日はその役割や内容を決める日だった。
「そうだ。役員は少し早く出なきゃいけなくてな。弁当ありがとう。行ってくる。」
「いってらっしゃいませ。」
ーーーーーーーー
教室に着くとすでにサキュバス改め愛田玲(あいだれい)がいた。
「あら、ぼっちゃん。お早いですこと。」
彼女も紅と同じく俺についてきた。彼女は紅とは違い、俺の学校の教師をしている。
「それは学校ではやめろと言ってるだろ。すぐに誰か来るぞ。」
「あら、いいではありませんか。そんな者がいたら私とぼっちゃんで地の果てまで追いかけてやりましょう。」
こいつはすぐにマウントをとるから放っておいた方が賢い。ガン無視をきめて自分の教室に入るとすでに天使がいた。クラス全員の机の上に紙が置いてある。
「あ、桐ヶ谷くんそれに先生も。おはようございます。」
「おはよう、砂糖さん。なんのプリント配ってるの?」
「先輩たちがテーマにしたシンデレラの振り付けを絵で描いてみたの。言葉よりは少しはわかりやすいかなって。」
俺たちのクラスは青。先輩たちの決めたテーマはシンデレラだった。振り付けは事前に俺たちは教わっているが、砂糖さんはクラス全員にわかりやすいように振り付けを絵に描いてくれていた。しかもかなり上手にだ。
「すごいわ砂糖さん。さすが学級委員ね。」
「いいえ、私に出来るのはこれくらいですから。私どんくさいしダンスも下手だから...。桐ヶ谷くん、こんな私だけどいっしょにやってくれてありがとう。」
屈託のない笑顔。かつ身長差による目線。
可愛すぎる...!!
「っっ!!いいえ!いっしょに頑張ろうな。」
そんな俺を明らかに冷めた目で見る愛田先生だが、そんなの気にしてはいられなかった。なんだかんだそんな会話をしていると集合時間が近くなり、みんな教室へ続々とやって来た。
「っはよー!真人!」
「おう、おはよう。」
入学早々俺に対してしつこかった近藤來哉(こんどうらいや)が早速絡んでくる。サッカー部に所属しているみんなの人気者だ。なぜ俺によく絡むのかは謎だが。
「お前いいなー、砂糖さんとしばらく二人っきりじゃねえか。抜け駆け許さねえぜ?」
と言いつつこいつは砂糖さんに対する俺の反応が楽しくて仕方ないのだ。
「はいはい、早く座れ。テーマ発表とかしなきゃなんねえんだから。」
へいへい、と來哉が大人しく席に戻る頃にはみんなが揃っていた。砂糖さんと俺は改めて前に出る。砂糖さんが教卓に立って話し出す。
「えーっとプリントを見てもらった通り、今年の体育祭、私たちの青団はシンデレラをテーマにすることが決まりました。今年の体育祭のコンセプトがおとぎ話なので他の団もおとぎ話からテーマが決まっている感じです。ダンスの振り付けは大体決まっているので覚えるだけなのですが、今年は学級委員の他にも衣装を着て踊ってもらう人が五人くらい必要です。」
シンデレラと聞いた時にみんながざわつく、男子からしたらあまり面白くもないだろう。
「まあまあ、静かになさい。みんな砂糖さんの話を最後まで聞いて?」
愛田の一言でみんなは静まる。
「...それで、特にまだ誰が何をやるとかは決まっていないのですが五人衣装を着る方かつダンス前の方で踊ってくれる方を募集します。」
「じゃあ今度は俺が説明するな。役はいつくかあって俺たちの組から出す役はまずシンデレラ、王子、魔法使い、小鳥、ねずみだ。シンデレラと王子以外は二人ずつくらいほしい。」
そう言うと早速來哉が手を挙げる。
「じゃあ俺は砂糖さんと真人がシンデレラと王子でいいと思うぜ!俺は余るならどの役やってもいいよ!なあ、みんなはどうだ?」
この明るい性格からすでにみんなの中心になっている來哉。すぐにみんなからうぉー!!と返事がやってくる。
「えっと、砂糖さんは大丈夫なの?」
「うーん、みんながそう言うなら。」
少し困ったように笑うが彼女はそう言う限り撤回はしないのだろう。
「桃胡がシンデレラやるなら、あたし魔法使いやる!」
次に声を上げたのは砂糖さんといつもいっしょにいる斎藤陽佳(さいとうはるか)だ。茶髪にうねったポニーテール。ギャルチックなメイクの割に砂糖さんとすごく仲が良い。でもまあそこら辺まで立候補があると私も俺もとどんどん役が決まっていった。
俺は砂糖さん大丈夫かな、ということに必死で一つ大事な事実を見落としていた。そう、俺は王子様役になっていたのだ。
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