第2話 der erste Angriff 2
湖の縁に沿った線路上、ハンブルクから下りの高速鉄道、ICEが緊急停車していた。車両に駆け寄り、侵入口を探る。司令室から指揮官の声が頭の中に響く。
『
『問題ない。敵を倒すのは私の仕事だ』
呼吸を整え、腰からハンドガンを手に取る。戦闘用データベースからICE車両の内部構造データを拾い上げ、仮想空間に展開。状況を確認する。私はドアに電流を流して開かせた。
ICE1等車。2人の研究員がこの車両のチケットを購入し、我々と別ルートで帰還していたはずだ。ハンドガンを構え、アクティブ防衛システムを働かせながら忍び足で進む。拡張された聴覚が隣の車両に響く銃声と悲鳴を捉えた。コンパートメントのガラス戸に真っ赤な血が飛び散っている。私は銃を構えたまま死者を確認した。
『研究員2名の死亡を確認』
座席の上で撃たれ、ドアに向かって倒れて絶命していた。さらに歩を進めようとしたとき、再び異様な電磁波を感知し、振り返りざまにトリガーを引く。急所をかばった腕に銃弾は食い込んだ。右腕がコートの下のサブマシンガンを手に取るのを視認し、床を蹴って座席の列の影に飛び込んだ。弾丸が座席を貫通し、樹脂の壁に穴を開ける。
急速な敵の接近を感知して、反射的に上を見上げる。座席を飛び越え、ナイフの切っ先が打ち下ろされる。瞬時に左手を犠牲にしてその攻撃を防ぐ。ナイフが手の甲を貫通し、熱い血が顔に滴った。構えたハンドガンのスライドを握り込まれ、完全にホールドされてしまった。
「くっ……!」
敵の身体は重く、こちらの力と拮抗している。上にいる方が有利だ。こいつを跳ね飛ばすには有り余る電力が必要だ。何にせよ長距離の移動で昼食を抜いている自分には難しい。ただ一つの方法を除けば。私は瞬きほどの間に計算し、選択した。痛みとともに体の奥底から熱いエネルギーが満ち、冷たい表情の敵をキッと睨む。
爆発的なエネルギーを利用し、ナイフの柄で相手を殴り、仰け反った間隙をついて手を反す。その手を青い眼球に向けて力いっぱい突き上げた。人工眼球が破れ、頭蓋を破って柔らかな脳をナイフに感じる。敵の躯体から力が抜けたのを感知し、私は忌々しい躯体を蹴り飛ばした。どろりとした血と髄液が身体に滴った。手から貫通したナイフを引き抜き、傷にネクタイを巻きつける。
電力の消耗が激しい、とシステムが懸念を示した。これ以上、自己消化で臓器を犠牲に発電したとしても十分ではない。急速再生は望めそうにない。急所に一発受ければ終わりだ。
熱した身体に空気を取り込み、熱い息を吐く。ハンドガンを構え、銃声と悲鳴が響く車両へと歩を進める。座席に真っ赤な鮮血が散っている。乗客の生命反応はない。その苦悶の表情を視覚で確認することもなく、ただ前に向かって進む。
次の車両の前で、私は拡張視覚を凝らして内部の状況を探った。向こう側で争う物音が聞こえる。曇りガラスのドアを開く。
通路の只中で男二人が取っ組み合って争っていた。一呼吸のうちにプログラムが判別し、致死の一発を敵に撃ち込む。
「…………」
死んだ男の身体をどけて、争っていた青年は後ずさった。FCS(火器管制システム)のレティクル越しに恐怖と驚愕の表情が見える。非敵対的。私は銃口を彼から外し、彼の脇を通り過ぎた。
不意に、曇りガラスの向こう側に強い電磁波を感じた。アクティブ防衛機能がけたたましくアラートを叫んだ。ガラスを突き破って接近した銃弾が目の前で火花を散らして弾かれる。電磁装甲に電力が吸い取られ、躯体の末端が冷たくなる。ガラスを蹴破り、隣の車両に転がり込んだ。青い瞳が私を捉える。
転がりながら脅威を射る。敵は古びたライフルから手を離し、ナイフを握り込んだ。照明を反射する切っ先が目の前の空間を切り裂いた。次の攻撃をハンドガンで受け止め、踏み込む。急所めがけて繰り出される攻撃を遮り続ける。敵の攻撃は正確にして、躯体は疲労を見せない。一撃一撃が重く、腕を弾くので精一杯だ。斬撃を受け止めた右手の指が2本切り落とされる。支えを失い床に落ちるハンドガンを敵は蹴り飛ばした。
負傷した左手を犠牲にして、右手を敵の顔面に叩き込む。合成繊維の骨格がきしむも、敵は攻撃の手を緩めなかった。意識を麻痺させるには十分なパワーはあったはずだ。……人間なら。
「ぐっ……」
敵の膝蹴りを腹に受け、身体がバランスを崩す。身体は崩れまいと反射的に後ずさるが、敵はその間隙を逃さなかった。右手がアサルトライフルを握り、トリガーに指がかかる。アラートが致死率を悲痛に叫んだ。
システムにノイズが走り、視界が傾く。腰を突き抜けた銃弾が神経を傷つけ、身体が崩れ落ちる。眼の前に迫る黒い銃口。アラートが再びけたたましく響き、銃声とともに意識がブラックアウトした。
脳髄の損傷、甚大。表層意識停止。再起動までの時間を算出開始。
銃弾が貫通した片目の視界はない。もう一方の目が、こちらに崩れ落ちる敵の姿を捉えた。床に転がる小さな薬莢が涼やかな音を立てた。
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