どうやら福島県民な彼は最強の英雄様らしい

キュータロー

プロローグ

ここは福島県F市何某町の片田舎。


ただただ田んぼと畑、そして古民家だけが佇むこの町・・・、いや村はスーパーどころかコンビ二すらない平和という言葉が一番に似合う場所である。


そんな平和な村に怪しげな、まるでどこかのちびっ子探偵アニメの謎の組織が如く、黒のスーツに身を包んだ黒ずくめの男達が山へと続く道を塞ぐような形で黒のベンツを配置しそれを見た村人たちはどこか不安そうな顔を浮かべている姿があった。


「あの〜?一体なにがあったんだべえ?」



一人の村人が勇気を出して、訛りながら道を塞ぐ黒ずくめの男にそう尋ねる。

すると黒ずくめの男達は互いの顔を見合わせて、少し頷くと笑みを浮かべた。


「すいません心配させてしまい。この奥に逃亡中の犯罪者が逃げ込みまして・・・。危ないのでここの道を封鎖させて頂きました。いつ犯罪者が家に侵入するか分かりませんので早く帰って家に鍵を掛けてください」


黒ずくめ達の説明に「それは怖いなぁ」「早くもどっぺ」っとゾロゾロと家へと変える村人を見届けた黒ずくめの男達は耳に装着した通信機に手を伸ばす。



「こちらチーム1。村人を家へと帰らせた作戦実行可能だ」

『了解。各チームも周囲に民間人がいない事を確認した。これよりSクラス級巨神型グリム 《サイクロプス》の殲滅作戦を実行する。各部隊は所定の位置へ、剣崎よ準備は万全か?」


長い黒髪を束ね、身長よりも遥かに大きな刀を携えたその少女は正座の姿勢を崩し目を開くとフーっと息を吐き出して、設置されたテントから出る。


「はい。私は準備万端です。いつでもいけます」


と自分が倒すべき対象を見据えてそう言い放った。


『分かった。バックアップは任せろ!思いっきり行ってこい!』


司令官と思われる男性の声を聞き、「了解」と只々そう答えた彼女は腰から刀を抜き取る。


「GRUUUUUUUUUUUUU!!」


地面が震えるほどの唸り声が辺りに響き渡たるが、彼女は平静を務めるとスッと構えて一度目を閉じた。


「対グリム兵器起動」


その声に連動するように彼女の身に待とうパワースーツが青白い光を浮かべ少女は目を大きく見開くと唸る巨神に向かい突撃を行う。


地面がひび割れるほどの速度。


捉えきれない巨神は彼女の刀の一撃を避ける暇もなく、胸に深々と刀が突き刺さった。


「爆裂しろ!」


少女の声と共に大きく強烈な熱と衝撃が巨神の体内を駆け巡り、あまりの痛みに巨神は人とは思えない叫びをあげるが少女はそんなの御構い無しに、体を切り刻んで行く。


斬撃数にしておよそ30を超えるあたりで、少女は一度巨神の体から離れると近くの木の枝に止まり通信機に手を伸ばした。


「相手は弱ってる?」

『いや少ししかダメージが通ってないようだ。傷が回復していっている・・・』

「弱点の核は?」

『どうやら眉間に埋め込まれてるらしいがかなり深いな・・・。行けるか?」

「・・・やるしかないでしょ」



そう言い残した少女は通信を切ると目当ての巨神の眉間に目を向けると一気に跳躍した。


あまりの反動で木が薙ぎ倒されるなか、少女は刀を突き出す。



「ジェットブースト!」


カシャッとパワースーツが音を上げると次の瞬間先程とは比べ物にならない凄まじい速度で一直線に眉間に迫る少女。



「いけえええええ!」



誰もが勝利を確信した瞬間、それは起きた。巨神を中心に大きな魔法陣が展開され次の瞬間地面がまるで鎖のようになって少女を拘束したのだ。


『ま、まさかアースバインドを使えるだと・・・!あり得ない!巨神型は魔法は元より殴るしか脳の無い筋力系のグリムのはずだぞ・・・!まさかこの短時間に成長を!?』


通信機から明らかに焦るような声で、この自体がいかにイレギュラーな出来事なのかがすぐに連想できる。


『神崎!今すぐにそこから撤退するんだ!この巨神型はSクラスの亜種だ!今のお前では太刀打ちできん!!』


司令官の男がそう叫ぶが、時すでに遅し。

サイクロプスは拘束された少女を静かに見据えると大口を開けた。


すると口の中に又も魔法陣が出現し、周りから光を吸収して行く。


「う・・・そ?」


周りの大気がビリビリと震え上がり、その魔法陣が意味する結果を知った少女はこれから自分は死ぬのだと悟ってしまう。


繰り出されるその攻撃は《光収魔砲》と呼ばれる代物であり、グリムの中でも高位のモノしか扱えない高等魔法であることを彼女は思い出す。


記録によればその一撃は都市を消滅させ、一面の森を更地にし、海を破るほどの威力を持つという。


そんな物を喰らえば、骨が残るのさえ怪しい・・・。



「グリムに無様に殺されるのなら私は自ら命を絶つ・・・!」


少女は力を振り絞って、右手の拘束を何とか引き千切ると刀を自らの首筋に置いた。



『辞めるんだ剣崎・・・!!』


男の声にも耳を貸さず少女剣崎は刀を動かそうとした瞬間。


とある光景を目の当たりにした事で、その動きを辞めざる負えなくなってしまう。


それも当然の結果だろう。


なんせ今相手をしている巨神の頭上には、いつのまにか1人の少年が500mlパックのカフェオレを片手に静かに此方を見つめる姿があったのだから。



「あ、貴方は一体・・・?」



戸惑いを浮かべる剣崎。それは司令官の男にも取れた様で無線越しに『いつから?奴は何者だ!!』と怒鳴り散らしている。



「全く。人が折角[小説を書こう]で気持ちよく執筆をしていたってのにドンチャン騒ぎを起こしやがって・・・」


少年は呆れるようにそれでいて不機嫌そうに、そう呟くとことの元凶である巨神を睨みつけた。


「お前が原因だな??それになんだか危ない攻撃しようとしやがって・・・。そんな悪い奴はお仕置きだな」


少女は少年の言葉に何を言ってるんだこの人は??と本気で相手が正気なのかを疑ってしまう。


それもそうだ。あんな呑気そうな男がこの巨神の実力も知らずにお仕置きだのなんだのほざいてるのだ無理もない。



しかし少年はごく当たり前の様に、ボキボキッと関節を鳴らすと大きく振りかぶる。


そんな何気ない行動だが、少女は次の瞬間恐怖のあまり身体を大きく震わせた。


何故なら彼から放たれている圧倒的な圧力が人間のそれとは思えぬ程強力で、まるで格の違いを見せつけられている様な感覚に陥ってしまうのだから。



「潰れろ」


少年の振りかぶった腕は的確に巨神の頭に叩き付けられた。するとその出来事は瞬きする間もなく起きる。


凄まじい衝撃と共に巨神の上半身はさっぱり消し飛び、寂しくも残ったのは上半身を失った下半身だけだったのだから。



『「な、なんじゃそりゃあああ!!」』



奇しくも周囲の人間の意見が一致したものの少年はそれを無視して、バラバラと土が崩れ落ちて行き、地面へと落下しそうになる少女を抱きとめると静かに降り立つ。


「本当に貴方は何者なの・・・?」


そう少女からの投げかけに、少年はフッと年相応の笑みを浮かべるとこう言い放った。


「俺はただの福島県民さ」


こうして少年の物語と言う歯車は静かに動き出すのだった。

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