わざと

よる

No.1

「優しい人。いい人。」

そうやって言われるたびに喜びの感情を覚えた。だが、それと同時に罪悪感が生まれる。私は優しい人でもなければ、いい人でもない。


いいように思われる行動や言動を理解しているつもりだ。例えば、ものを拾うとか笑顔で話すとか、心を開いているようにみせるとか。相手から本当はどう思われているかなんて、わからない。でも、自分が思う「いい人」像に自分を近づけていって、わざとそういう行動を起こす。

学級委員の人に用事があった。何故だかわからないが、今日はどうしても女子のほうと話したくないと思ってしまった。だから、わざと男子の学級委員に話しかけた。私だって、二人いるときに自分が頼られなかった時の、残念さや不満、相手に対する嫉妬心、少しの怒り、沢山知っているはずなのに。そうやって、わざとわざとを重ねていく。そのたびに私は、自分が醜いことを実感し、自らを正当化することができずに、余計、その道へ走ってしまうのだ。

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わざと よる @September_star

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