玉つばき背中に負ふや春のねこ

【読み】

 たまつばきせなかにをふやはるのねこ


【季語】

 春のねこ(春の猫)(初春)


【語釈】

 玉つばき(玉椿)――つばきの美称。


【大意】

 玉のような椿を背中にしている(恋の季節をむかえた)春のねこなのであった。


【附記】

 初春はねこが恋をする季節とされる。伝統的な図柄「獅子に牡丹」(あるいは「牡丹に獅子」)の俳諧化としていいだろう。「玉椿」は三春。


【例句】

 猫の恋やむときねやの朧月 芭蕉

 両方に髭があるなり猫の恋 来山らいざん

 うらやましおもひ切時猫の恋 越人えつじん

 足跡をつまこふ猫や雪の中 其角きかく

 猫の恋不破の関屋はあれにけり 李由りゆう

 猫の恋初手から啼て哀也 野坡やば

 人はいざ猫よりかるし猫の恋 沾圃せんぽ

 三味線の皮のうき名や猫の恋 木導もくどう

 梅が香に鼻うごめくや猫の妻 史邦ふみくに

 二三日内にも居らず猫の恋 舎羅しゃら

 草をむ胸安からじ猫の恋 太祇たいぎ

 おもひの耳に動くや猫の恋 同

 濡れて来し雨をふるふや猫の妻 同

 門番が明けてやりけり猫の恋 一茶

 恋猫のぬからぬ顔で戻りけり 同

 夜あらしや聞耳たつる猫の妻 卓池たくち

 耳うとき婆々はしらずや猫の恋 梅室ばいしつ

 恋猫や鮑の貝の片思ひ 内藤鳴雪

 淡雪や通ひ路細き猫の恋 寺田寅彦


 五月雨さみだれや又一しきり猫の恋 白雪はくせつ

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