自転車を乗り捨てにせん春の旅

【読み】

 じてんしやをのりすてにせんはるのたび


【季語】

 春(三春)


【大意】

 春の旅にあって自転車を乗り捨てにしようと思うのであった。


【附記】

 春は四季のなかで最も旅に適していたと見える。松尾芭蕉(1644-1694)が奥の細道の旅に出立したのも春の日のことである。

 漱石(1867-1916)が「春はものの句になり易し」と言ったように、「春の」と言っておけば案外それらしくなりそうである。


【例歌】

 見わたせば柳桜をこきまぜて宮こぞ春の錦なりける 素性法師

 おもふどち春の山辺に打ちむれてそこともいはぬ旅寝してしが 同

 人どよむ春の街ゆきふとおもふふるさとの海の鴎啼く声 若山牧水

 われと身のさびしきときに眺めやる春の銀座の大通りかな 同


【例句】

 ゆきつくす江南の春の光かな 貞徳ていとく

 富士は雪三里裾野や春の景 宗因そういん

 おもしろやことしのはるも旅の空 芭蕉

 浦島がたよりの春か鶴の声 其角きかく

 鼻紙にもの書く春のながめかな 大魯たいろ

 横雲に声のみゆるやはるのかね 寥松りょうしょう

 月さして一文橋の春辺かな 一茶

 捨て舟にもの食ふ春の鴉かな 下村為山

 空に消ゆる鐸のひびきや春の塔 夏目漱石

 春はものの句になり易し京の町 同

 はらわたに春滴るや粥の味 同

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