むらさきの褪せずもがもな花すみれ

【読み】

 むらさきのあせずもがもなはなすみれ


【季語】

 花すみれ(花菫)(三春)


【語釈】

 もがもな――「もがも」に同じ。「もがも」は、…があればいいなあ。…(で)あってほしいなあ。[デジタル大辞泉]


【大意】

 すみれの花のその鮮やかなむらさきが(いつまでも)色あせずにあってほしいものだなあ。


【附記】

 永遠の若さ・生命を望むのは人間のさがであり、人間の人間たる所以でさえあるかもしれない。

 芭蕉らがすみれを「花すみれ」ではなく「すみれ草」とした理由は寡聞にして知らない。が、芭蕉の句に関してはその方がいいようにわたしは感じる。


【例歌】

 すみれさく浅茅あさぢが原に分けきてもただひた道にものぞ悲しき 藤原俊成

 すみれさくとほさと小野の朝露に濡るとも摘まむ旅のかたみに 同

 春雨のふる野の道のつぼすみれ摘みてをゆかむ袖はぬるとも 藤原定家

 あるじなき垣ねまもりて故郷の庭に咲きたる花菫かな 樋口一葉

 われ泣きて大きやしきの黒門の側の菫をつみてかへりし 与謝野晶子


 河ののゆつ盤群いはむらに草むさず常にもがもな常処女とこをとめにて 吹芡刀自ふふきのとじ吹黄刀自ふきのとじ

 常磐ときはなすかくしもがもと思へども世の事なれば留みかねつも 山上憶良

 世の中は常にもがもな渚こぐあまの小舟をぶねの綱手かなしも 源実朝


【例句】

 何盛なにもりの屋しきの跡やすみれ草 知足ちそく

 明ぼのやすみれかたぶくうごろもち 凡兆ぼんちょう

 山路来て何やらゆかしすみれ草 芭蕉

 世の人のしらぬ匂ひや菫草 許六きょりく

 鼻紙のあひにしをるるすみれかな 園女そのめ

 雉子の尾のやさしくさはる菫かな 秋色しゅうしき

 牛も起てつくづくと見る菫哉 千代女ちよじょ

 順礼のへたりと居るやすみれ草 素丸そまる

 骨拾ふ人にしたしき菫かな 蕪村

 加茂堤太閤様のすみれかな 同

 つぼすみれなりひら道のゆかりかな 蝶夢ちょうむ

 菫つめばちひさき春のこころかな 暁台きょうたい

 菫踏で石垣のぼる恋路かな 几董きとう

 ちよつぽりと菫影もつ西日哉 蒼虬そうきゅう

 今少したしなくもがな菫草 一茶

 壁土に丸め込まるる菫かな 同

 菫咲川をとび越す美人哉 同

 大和路や紀の路へつづく菫草 夏目漱石

 川幅の五尺に足らで菫かな 同

 菫程な小さき人に生れたし 同

 見付けたる菫の花や夕明り 同

 我庭に一本ひともとさきしすみれ哉 正岡子規

 田の畦の菫咲きけり初瀬道はつせみち 河東碧梧桐

 吹かるるや塚の上なるつぼ菫 芥川龍之介


 黄菊白菊其外の名はなくもがな 嵐雪らんせつ

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