見に来よやひとに知られぬ山桜

【読み】

 みにこよやひとにしられぬやまざくら


【季語】

 山桜(晩春)


【大意】

 人知れず咲くこの山桜をどうぞ見に来られたい。


【附記】

 いまだ十分に多くの読者を獲得しない筆者の心情が反映されている。つまりは自画自賛の句と言って必ずしも間違いではない。発想としては凡庸な類だろう。なお、ソメイヨシノ以前は桜といえば山桜であった由。


【例歌】

 あしひきの山桜花日並けならべてかく咲きたらばいたく恋ひめやも 山部赤人

 敷島しきしまのやまと心を人とはば朝日ににほふ山さくら花 本居宣長  


【例句】

 山ざくら散るや小川の水車 智月ちげつ

 うかれける人や初瀬の山桜 芭蕉

 うらやまし浮世の北の山桜 同

 ゆきゆきて虹の根ひくし山桜 言水ごんすい

 忘れじな戸なき雪隠の山ざくら 嵐雪らせつ

 なまぐさき風おとすなり山桜 同

 見返へれば寒し日暮れの山桜 来山らいざん

 二日酔朝日ぞ匂ふ山桜 才麿さいまろ

 二すじの道は角豆ささげか山ざくら 其角きかく

 やまざくら身をなくうたの捨子かな 同

 谷水や石も哥よむ山ざくら 鬼貫おにつら

 一刷毛の雲や入日の山ざくら 李由りゆう

 とびの輪の崩れて入るや山桜 丈草じょうそう

 めしの時みなあつまるや山ざくら 野坡やば

 さつと咲さつと散けり山ざくら 木導もくどう

 鐘のなママ寺にもちるや山桜 乙由おうゆう

 咲も散も一木づつせよ山桜 挙白きょはく

 上人しやうにんのはなし尊し山ざくら 諷竹ふうちく

 弘法のここにも一宇やまざくら 存義ぞんぎ

 海手より日は照つけて山ざくら 蕪村

 人間にうぐひすなくや山ざくら 同

 みよし野のちか道寒し山桜 同

 見おろせば人里深し山ざくら 麦水ばくすい

 材木の上にあらしや山桜 召波しょうは

 須磨寺のめしのけぶりや山ざくら 同

 寛永の銭を蒔てや山ざくら 晩得ばんとく

 淵青し石に抱つく山ざくら 几董きとう

 山桜丹波の風は未だ寒し 雅因がいん

 米かしぐ水に乏しや山桜 佳棠かとう

 なつかしや身ひとりにふる山桜 琴風きんぷう

 賭弓や女もまじる山桜 内藤鳴雪

 里人や古歌かたれ山桜 村上鬼城

 静かさや雨に暮れ行く山桜 藤野古白

 尼もゐてすしを開くや山桜 河東碧梧桐

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