あの日みた雲わすれめや蝉の声

【読み】

 あのひみたくもわすれめやせみのこゑ


【季語】

 蝉(晩夏)


【語釈】

 わす(忘)れめや――反語表現。忘れるだろうか(いや、忘れない)。


【大意】

 蝉の鳴き声が聞こえる。今日と同じように蝉が鳴いていたあの日に見た雲を忘れることがあるだろうか(きっと忘れないだろう)。


【附記】

 前の句集で公開した句を改良したようなものである。筆者が読んでいる某高校野球ものの漫画の影響もあってかかる句を詠んだ。マ行の音を基調にしている。趣向としては音声から映像を回顧したものになっている。

 時に、後述の芭蕉の「やがて死ぬ」の句は中七を「けしき見えず」とする説があるそうで、筆者としてはそちらのほうがいい気がする。


【例歌】

 石走いはばしる滝もとどろに鳴く蝉の声をし聞けば都し思ほゆ 大石簑麻呂

 常もなき夏の草葉におくつゆを命とたのむ蝉のはかなさ 作者不詳

 夏深き杜の梢にかねてより秋をかなしむ蝉の声かな 寂蓮

 蝉時雨せみしぐれながらふ聴けば母の手の冷たき手触りみにおもほゆ 北原白秋


【例句】

 虫の中で抜け出でたりや蝉の声 貞徳ていとく

 やがて死ぬけしきは見えず蝉の声 芭蕉

 閑さや岩にしみ入蝉の声 同

 おしなべて鳴くや晴れゆく峰の蝉 北枝ほくし

 吹おろす風にたわむや蝉の声 如行じょこう

 初せみや日和鳴出す雲の色 邦里

 鳥稀に水また遠しせみの声 蕪村

 蝉も寝る頃や衣の袖畳み 同

 蝉鳴くや行者の過ぐるひるの刻 同

 蝉の音も煮ゆるがごとき真昼かな 闌更らんこう

 夕月や一つのこりしせみの声 蝶夢ちょうむ

 蝉なくや五尺に足らぬ庭の松 正岡子規

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