俳諧の神も留守なり小六月

【読み】

 はいかいのかみもるすなりころくぐわつ


【季語】

 小六月(初冬)


【語釈】

 小六月――「陰暦10月の異称。雨風も少なく、春を思わせる暖かい日和(ひより)の続くところからいう。小春」(デジタル大辞泉)。


【大意】

 俳諧の神様も留守にしている小六月である。


【附記】

 神々が出雲に参集することから旧暦10月を神無月とも称することは周知の事実だろう。


 松尾芭蕉(1644-1694)の命日は旧暦10月12日である。その名を旅人と呼ばれんために枯野を駆け巡っているころかもしれない。


 権威に媚びるのはさもしいに違いないが、何人もその人が俳諧史上最大の功労者であることに異議を唱えるまい。


 なお、「神の留守」も初冬の季語の由。


 推敲前、「俳諧の神もこそ行け神無月」→「俳諧の神も留守なり神無月」。


【例句】

 ゆりすはる小春の海や墓の前 丈草じょうそう

 鶯の其手はくわぬ小春かな 也有やゆう

 虻の影障子にとまる小春かな 同

 松の葉に青き小春の入日かな 闌更らんこう

 海の音一日遠き小春かな 暁台きょうたい

 立ち出でて鶏の雛見る小春かな 白雄しらお

 さのの小春和哥わかの浦辺は鶴あらん 青蘿せいら

 暮れそめて馬いそがする小春かな 几董きとう

 羽をこぼす梢のとびや小六月 蒼虬そうきゅう

 水底の砂も小春の日なたかな 梅室ばいしつ

 枯枝に青き鳥啼く小春かな 内藤鳴雪

 紅葉して苺畑の小春かな 村上鬼城

 生垣の上より語る小春かな 夏目漱石

 病む人に鳥鳴き立る小春かな 同

 電信に雀のならぶ小春かな 正岡子規

 山中の積木に休む小春かな 河東碧梧桐

 ふごの中雀来て居る小春かな 同

 要害の城や小春の旧山河 同

 埋れ木を掘る里人の小春かな 同

 池の水障子に映る小春哉 寺田寅彦

 先生と話して居れば小春哉 同

 小春日のけふも暮れけり古障子 芥川龍之介

 小春日や耳木兎みみづくとまる竹の枝 同


 留主のまに荒れたる神の落葉かな 芭蕉

 開山忌かいさんきとなりは留主のいなり山 浪化ろうか

 石だたみ箒目疎し神の留守 調和ちょうわ

 神の留守をねらふて剃し天窓あたま哉 存義ぞんぎ


 芭蕉去てそののちいまだ年くれず 蕪村

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