草むらに雉かくれけり暮の春

【読み】

 くさむらにきじかくれけりくれのはる


【季語】

 暮の春(晩春)


【語釈】

 暮の春――春の終わる頃。


【大意】

 草むらの中に雉がかくれてしまった。春ももう終わりなのだなあ。


【附記】

「春惜しむ人や榎にかくれけり」(蕪村)の句あり。「万緑叢中紅一点」なども意識されている(本文は春だが、「万緑」は三夏の季語とされる由)。春と夏の境目はつかみどころがないように感じるきょうこの頃である。


 なお、「雉」は三春の季語。


【例歌】

 春の野にあさるきぎしの妻恋ひにおのがあたりを人に知れつつ 大伴家持

 あしひきの八つ峰の雉鳴きとよ朝明あさけの霞見れば悲しも 同

 あからひく朝靄あさもやはるる土手の上に雉子きぎす光りて見えにけるかも 古泉千樫


【例句】

 ほろほろと朝露はらふ雉子かな 肖柏しょうはく

 父母のしきりに恋ひし雉子の声 芭蕉

 蛇くふときけばおそろし雉の声 同

 滝壺もひしげと雉のほろろかな 去来きょらい

 うつくしき顔かく雉のけづめかな 其角きかく

 大峯や桜の底の雉の声 李由りゆう

 雉子の尾のやさしくさはるすみれかな 秋色しゅうしき

 城山に雉子出でけり小六月 山店さんてん

 名月や何に驚く雉の声 示右しゆう

 一夜寝た妻に尾やひく雉の声 也有やゆう

 若くさや尾のあらはるる雉子の声 千代女ちよじょ

 ゆたゆたと畝へだて来る雉子かな 太祇たいぎ

 雉子追ふてしかられて出る畠哉 同

 遅キ日や雉子の下りゐる橋の上 蕪村

 物かげに雉の光や春の雨 涼袋りょうたい

 茶の花にきぎす鳴くなり谷の坊 召波しょうは

 山里や屋根へ来て啼く雉子の声 樗良ちょら

 おのが音に驚き顔の雉子かな 青蘿せいら

 雉子啼いて後はくは打つ光かな 同

 三井寺の鐘はくるるに雉子の声 几董きとう

 鶯の日はくれにけりきじの声 乙二おつに

 薄霞雉子は一谿越えにけり 幸田露伴

 雉子打の濡れて帰るや草の雨 尾崎紅葉

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