コンビニに強盗出づる夜寒かな

【読み】

 コンビニにがうたういづるよさむかな


【季語】

 夜寒(晩秋)


【語釈】

 夜寒――「夜、肌寒いこと。晩秋のころ、夜半に寒さを覚えること。また、その時節」(精選版 日本国語大辞)。


【大意】

 コンビニに強盗が出る晩秋の肌寒い夜である。


【附記】

 凶悪犯罪は寒い時より暑い時のほうが多く起こるのではないか。人間には暑さを怒りと、寒さを不安と混同する性質があると聞く。しかるに、人の声や物音は夜の寒さを演出する良き舞台装置なのであろう。


 今さらだが、この国の凶悪犯罪の発生件数は減少傾向にあると聞く。


【例句】

 夜寒にはいとどしくしくなくねかな 季吟きぎん

 病雁びやうがんの夜寒に落ちて旅寝哉 芭蕉

 鹿鳴て猫は夜寒の十三夜 嵐雪らんせつ

 落雁の声のかさなる夜寒かな 許六きょりく

 きりぎりすなくや夜寒の芋俵 同

 あんどんをけしてひつ込む夜寒かな 正秀まさひで

 庭へ出て馬の米喰夜寒かな 露川ろせん

 初産の二タ月延て夜寒哉 りんじょ

 夕顔の汁は秋しる夜寒かな 支考しこう

 瀬の音の二三度かはる夜寒かな 浪化ろうか

 川づらにかぢこふ声の夜寒哉 仙化せんか

 むしの後人のはた織る夜寒哉 也有やゆう

 水瓶みづがめへ鼠の落ちし夜寒かな 太祇たいぎ

 貧僧の仏を刻む夜寒哉 蕪村

 猿どのの夜寒訪ゆく兎かな 同

 手燭てそくしてよきふとん出す夜寒哉 同

 盗人ぬすびとの屋根に消え行く夜寒かな 同

 舟窓に月の気疎けうときき夜寒哉 嘯山しょうざん

 糊強のりごはな夜着を叩し夜寒哉 同

 更て見る空に夜寒のわたりけり 同

 鳴かで蚊の行灯あんどん巡る夜寒かな 大江丸おおえまる

 酒造る桶に音ある夜寒かな 同

 目覚めして旅僧座し居る夜寒かな 大魯たいろ

 椎の実の板屋を走る夜寒哉 暁台きょうたい

 木枕にしらがみなづむ夜寒かな 星布尼せいふに

 く人に素湯さゆまゐらする夜寒かな 几董きとう

 めかれたる松茸市の夜さむかな 同

 あたらしき綿入めんいれ着たる夜寒哉 月居げっきょ

 岡崎の橋に月すむ夜寒かな 道彦みちひこ

 芋茎さく音を夜寒のはじめ哉 蒼虬そうきゅう

 人声ひとごゑの処のしれぬ夜寒かな 鳳朗ほうろう

 親といふ字を知てから夜寒哉 一茶

 次の間の灯で飯を喰ふ夜寒哉 同

 膝がしら木曾の夜寒に古びけり 同

 つばくろの巣に鼠鳴く夜寒かな 梅室ばいしつ

 客人の夜着押つくる夜寒哉 程已ていい

 夜寒哉煮売の鍋の火のきほひ 含粘

 湖に山火事うつる夜寒かな 内藤鳴雪

 山越えや馬も夜寒の胴ぶるひ 同

 壁土を鼠みこぼす夜寒かな 村上鬼城

 星一ツ飛ぶや夜寒の鍛冶の音 幸田露伴

 母と二人いもうとを待つ夜寒かな 正岡子規

 挑灯てうちんかはやへ通ふ夜寒哉 同

 銭湯に端唄はうたのはやる夜寒哉 同

 客僧の言葉少き夜寒かな 寺田寅彦

 山犬の里へ吠え寄る夜寒哉  同

 新聞を貼るや夜寒の壁の穴 同

 灰汁あくの垂るる音や夜寒の台所 同

 姿見に灯うつる夜寒哉 尾崎放哉

 竹林や夜寒のみちの右ひだり 芥川龍之介

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る