蝉死して即ち破れぬ雲の城

【読み】

 せみししてすなはちやれぬくものしろ


【季語】

 蝉(晩夏)


【語釈】

 破れぬ――崩れ去ってしまう。「破る」はやぶれる。


【大意】

 蝉が死に、時を置かずして雲の城が崩れ去るのであった。


【附記】

 杜甫(712-770)の『春望』の「国破れて山河在り。城春にして草木深し」やそれを受けたらしい芭蕉(1644-1694)の「夏草やつはものどもが夢の跡」を思ってつくった(杜甫の詩が春であったのが、芭蕉の句において夏になっている点に注目されたい)。


 推敲前、「蝉死すや一夜にくづる雲の城」。


【例歌】

 石走いはばしる滝もとどろに鳴く蝉の声をし聞けば京師みやこし思ほゆ 大石簑麻呂

 蝉時雨せみしぐれながらふ聴けば母の手の冷たき手觸てざはみにおもほゆ 北原白秋


【例句】

 やがて死ぬけしきは見えず蝉の声 芭蕉

 閑さや岩にしみ入蝉の声 同

 洗濯の袖に蝉鳴く夕日かな 杜国とこく

 草蒸して蝉のとりつく鳥居かな 言水ごんすい

 滝水の中やながるる蝉の声 惟然いぜん

 熊蝉の声のしをりや鈴鹿川 支考しこう

 吹おろす風にたわむや蝉の声 如行じょこう

 初せみや日和鳴出す雲の色 邦里

 蝉鳴くや秋の近さも一里塚 也有やゆう

 半日の閑を榎やせみの声 蕪村

 立枯れの木に蝉なきて雲のみね 同

 せみの声茶屋なきそまを通りけり 召波しょうは

 はつせみや初瀬の雲の絶え間より 暁台きょうたい

 降晴て杉の香高し蝉の声 白雄しらお

 草蝉やいささかあかきたでの雨 北原白秋

 啼き渡る蝉一声や薄月夜 芥川龍之介

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る