墨すりて絵にかかばよき菫かな

【読み】

 すみすりてゑにかかばよきすみれかな


【季語】

 菫(春)


【大意】

 墨をすって絵にかけば趣のある菫である。


【附記】

 菫の語源が「墨入れ」らしいことから発想した。


 芭蕉、蕪村、子規、漱石ら少なからぬ句作者が絵を描いていたようで(蕪村は画業を生業としており、漱石の『草枕』の主人公は洋画家であったと記憶する)、絵画の素養は漢詩のそれとともに俳句作者に最もありたい素養とわたしの目に写る(過去には「うたい俳諧はいかいの源氏」なる言説もあったようたが)。


【例歌】

 春の野に須美礼すみれみにと来しわれそ野をなつかしみ一夜寝にける 山部赤人

 きぎすなく山田の小野の壺すみれしめさすばかりなりにけるかな 藤原顕季

 日のささぬおどろがもとの花菫薄紫に咲きにけるかな 正岡子規


【例句】

 菫咲く野はいくすじの春の水 宗長そうちょう

 明ぼのやすみれかたぶくうごろもち 凡兆ぼんちょう

 山路来て何やらゆかしすみれ草 芭蕉

 世の人のしらぬ匂ひや菫草 許六きょりく

 紫のさめぬ連哥れんがや菫草 露川ろせん

 つばくらの巣にもえそめし菫かな 不角ふかく

 鼻紙のあひにしをるるすみれかな 園女そのめ

 順礼のへたりと居るやすみれ草 素丸そまる

 加茂堤太閤様のすみれかな 蕪村

 一夜寝てなほもゆかしき菫かな 樗良ちょら

 つぼすみれなりひら道のゆかりかな 蝶夢ちょうむ

 壁土に丸め込まるる菫かな 一茶

 菫咲川をとび越ス美人哉 同

 川幅の五尺に足らで菫かな 夏目漱石

 菫程な小さき人に生れたし 同

 我庭に一本ひともとさきしすみれ哉 正岡子規

 日一日菫の花に遊ママけり 同

 日本派の句集にゑがく菫かな 同


 月に柄をさしたらばよき団扇うちはかな 宗鑑そうかん

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