フレイミーの一面 その2

 雪崩現象や泉現象は、一般人からしたらいきなり突然現れて、人を襲い、地域を襲い、村や町を襲う。

 そういうことを思えば、俺の察知能力はその予告みたいなもんだから、突然言われたってそれに備える猶予はあるわけで。

 ポカンとする時間がないほど切羽詰まってるわけじゃない。

 それに、ただの三日以上の時間的余裕はあるはずだ。

 というのも。


「場所はこのさらに奥の山の方面」

「え?」


 ポカンとしているみんなから、詳しい情報をせがまれたわけじゃない。

 が、魔物が出ますよ―の一言で終わりってのも変な話だ。

 みんなだって戦力になってくれる。

 そんなみんなに情報提供しないで守ってくださいじゃ、俺は一体何様だよって話だし。


「奥の山の方面って……」

「サミーの生まれ故郷ってこと?」


 テンちゃんのこの質問は、解釈に困る。


「サミーが生まれたのは、ここら辺りだったと思うが?」

「えっと、そう言うことじゃなくてさぁ……」

「するってぇと、サミーの母親が、サミーが生まれる卵を産んだ場所ってことでええんか?」


 ミアーノ、正解。


「あぁ。ただし、もう少し手前な」

「ナラ……コッチニクルツモリナラ、ココラニトウチャクスルノハ、サラニナンニチカ、カカルカナ」

「ああ。だと思う」


 けど、ンーゴの想像通りこっちに来る場合な。


「けど、こっちに来る可能性はどうかと思うな」

「雪深いところだと、どっちに何があるか分からなくなりそうだから、こっちに来ないかもしれませんね」

「何言ってんの、クリマー。下へ下へと降りていけば、ここに辿り着くんじゃないの?」

「マッキー。それはどうかな」


 え? と俺の方を見るマッキーは、鳥の足の照り焼きを手にして、口の傍まで持ち上げていた。

 エルフが鳥の足に豪快にかぶりつくのを見れるのは、世界広しと言えどもおにぎりの店だけだ。


「え? 何か変な事言った?」

「下り坂というなら、谷間に向かう方向はすべてそうだ。サミーのおっかさんがいるところに進む方にもな」

「え? そうなの?」


 そうなのだよ。

 事実、サミーの母親がいるところは、谷というには高低差はそこまではないが、上り坂に囲まれている山の中にある平地だったしな。


「じゃあサミーのお母さん、ヤバいんじゃない?」

「ミ?」


 サミーは料理にかぶりついていたその顔をマッキーに向けて小首をかしげる。

 その姿も可愛いんだが、顔は料理のタレにまみれている。


「……コーティ。サミーの顔、拭いてやれ」

「ん? んー? ぶはっ。サミーってば、可愛いなぁ」


 サミーの隣に座って、俺のおにぎりにかぶりついてるコーティも、サミーに負けないくらい可愛いが。


「で、何が危ないって?」

「あ、あぁ。だってあんな魔物達が一斉に襲い掛かったら、どんな魔物も……」


 あー……。

 俺とミアーノとンーゴ以外は、サミーの母さん達の姿、見てないんだっけか。

 なら心配するのも無理はないか。


「多分、ギョリュウ族の大人一体に、連中一斉にとびかかったって敵わねぇと思うぞ? だから俺としては、向こうに向かってほしいとは思うが……」

「コッチニキタラ、ドウスルノ?」

「ライム、おねがーい」

「ライムヒトリハ、ムリダヨー」


 うむ。

 分かってる。


「まあそれは冗談としてもだ。距離はおそらく、こっちに来る方が圧倒的に長い。飛行して移動する奴もいない。となれば、地上に沿って移動するしかないんだが……」

「雪の中進むのってえ、大変だと思うぞお。俺もお、何回かあ、体験したことあるけどお」


 そうか。

 モーナーはこの村の生まれだったっけか。

 そんな体験は、俺と出会う前にしてきたってことか。


「俺はあ、その龍がいるところまではあ、行ったことないけどお、そんなとこまで行かなくてもお、雪の中進むのってえ、すごく大変だぞお」

「オレナラ、ツチノナカモユキノナカモ、アンマリカワンナイケドナ」


 ンーゴは……そりゃそうだろうなぁ。


「でもさ、冒険者達には特になんにも知らせなくてもいいってことだよね? フィールドの方には誰も行かなくなったし」


 そこがな。

 わざわざ知らせる必要はないってのは分からなくはないが……。


「危険と紙一重の場所で活動するのを見ている、ってのは……人としてどうかと思うんだよな。魔物としてなら平気っていう話じゃねぇぞ?」

「それくらい分かってるよっ」


 分かってるか分かってないか分からないのがテンちゃんだからなぁ。


「伝えたって別に何の問題もないでしょうに。迷うこと何かあるの?」

「……んー……」


 ヨウミに聞かれてちょっと考えてみた。

 ……特に問題……ないのか?


「三日後に現象が起きて、そこからここまで来るのに雪の中潜ってくるから一日か二日くらいかかる、と。その間にシアンに助けを求めたりして、退治してもらって全滅するまでの間我慢してもらうってことでしょ?」

「そこなんだよな」

「どこよ」

「シアンに頼む。それはいいよ? けどどこで退治してもらう?」

「どこって……」

「雪の中が戦場になるんだとしたら、退治するのが人間だったら手こずるんじゃね?」

「どうして?」


 どうしてもこうしても……。


「防具って、大概金属だろ。熱しやすく冷めやすい。雪の中だったら、雪の冷たさが防具に伝わっちまって体が冷えちまわないか?」


 そんな中、長時間の先頭をお願いする、というのも酷くね?


「あ……」


 ヨウミも想像ついたか。

 ちょっと頼みづらい一件だ。

 まぁそれを仕事と割り切ってもらえるなら、こっちもためらうことはないんだろうが……。


「大丈夫だよ。平気だよ?」

「テンちゃん、どうして?」

「あたしのお腹で暖めてあげられるからっ」


 あのなぁ……。


「テンちゃん、それは止めといた方がいいよ?」

「どうして? コーティ」

「お腹に埋もれさせたものなら、みんな眠っちゃうでしょうが」

「……あ……」


 あ、じゃねーよ!

 自分の特徴、頭から消してんじゃねーよ!


 ※※※※※ ※※※※※


 で、翌日、店に来た冒険者達に、雪崩現象が起きることを伝えた。

 夏場ならともかく、防具がすぐ冷たくなる上、移動がままならない雪の中。

 ダンジョン内で現象が起きた時はみんなの協力のおかげで退治できたのだが、今回はそうは上手くいかない。

 ましてや冬山だ。何の異変がなかったとしても、足を踏み入れたら最後、遭難なんて珍しくない雪山。

 それにこっちに来るとは限らない。

 ということで、余裕も見て十日ほどここには来ないように、と注意を促した。

 ところが、である。


「ならばそれこそ私達の出番ではないか。皆の者! 現象の魔物全滅に取り掛かるぞ!」


 無鉄砲にもほどがある。

 ここに訪れる冒険者チームは数あれど、そんな気勢を上げたのはただ一組だけ。

 フレイミー一味であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る