村の未来 あたしの未来 前編

「そうだのう……。まず、肌の色の話からしようか」

「あ……はい……」


 あたしとしては、あたしが気を失ってからのことを聞きたかったんだけど。

 でも、そんなことはお構いなし。

 さすがは長老!

 こんな風にはなりたくないっ!


「エルフ族においてはな、どの集落、どの村も問わず、マッキーのように、普通のエルフと違う肌の色の者が時々生まれる。とはいっても十年……いや、二十年に一人、くらいかの?」


 他の老エルフ達がうんうんと頷いている。

 そうか。

 この老エルフ達は、何百年も生きてるから何人か目にしたことはあるのかも。


「肌の色が違うエルフは、これまでに何人かいた。マッキーのように黒っぽい者ばかりじゃない。紫っぽいのもおったし、土色の者もおった。いずれにせよ、普通のエルフとは表面上だけ違う、という話じゃない。特別に強い何らかの力を持った者であった。その力ゆえの、肌の色の違いではなかろうか、と思うておる」

「普通の肌のエルフの中に、あんな力を持つ者はおらなんだでな」

「逆に、普通じゃない肌のエルフ達は、誰もがみな特別な力を持っておった」


 老エルフたちは口々にそんなことを言う。

 だからあたしも例に漏れず、ってことか。

 異質な力と肌の色の違いは、別個の物じゃなく関連があったものなのか……。


 あれ?

 そう言えば確か転生する時に神とやらが……。


『一つ目の願いを聞き届けるとしたら、人間では難しい』


 と言っていた。

 一つ目の願いは、周りの人が持っていない、成長する力で、どんなに体が不自由になっても使える、危機を乗り越えられる力が欲しい、だったよね。


 そしたら、人間じゃなくエルフに転生するのがいいだろう、みたいなことを言ってた。


 ……でも、村を出ていけって言われたよ?

 前世の時は仲間外れにされた、人間と変わんないんじゃない?


「今回の件を聞いた時、倒木の件と狩り場の洞窟の件も思い出しての。そして、ドラゴンの首を落とした話もな」


 うわー。

 ドラゴンの件はともかく、隠してたつもりが……。

 でもあたしの仕業って結論を出すの、短絡すぎない?


「その行為をしたところは誰も見とらん。が、マッキーが近くにいた、というのもな」

「ドラゴン以外の二件は、もちろん他の子も近くにおったようだの。だが、特別な力を持っておると思われるマッキーがいたからな」

「そこでその肌の色、ということじゃ。そして、ドラゴンの件も合わせて考えればな」

「いずれも、エルフの力では何ともできん。どうしてもマッキーに目が行くのも道理でのお」


 最初から怪しまれてたのか。

 ……まぁ……悪事を企んでたわけじゃないから、別にこそこそする必要はない……と思うんだけど。


「……肌の色が違う、というだけで、警戒するエルフもおった」

「今でこそ言えるが、マッキーが生まれたばかりの頃は、肌の色が違うエルフなんぞ今のうちにどうにかしろ、という声も聞こえておった」

「どこの誰が言い始めたかは分からんし、生まれたばかりの赤ん坊に向かってなんて口を利くんだ、と怒る声の方が大きかったの」


 どうにか……。

 亡き者にする、という意味なんだろうな。


「何をしでかすか分かったものではない、と警戒する声もあった」

「それが強くなったのは、ドラゴンの首を落としてからだったかの。マッキーとリーモがその現場にいたっちゆー話。マッキーは覚えとるな?」

「それは……もちろん……」


 ありますよ。

 あるけど、どういう顔をしていいか分からない。

 威張り腐った顔をするのも問題だし……。


「そこがな……。マッキーを恐れるエルフが増え始めた」


 えっと、どこでしょう?


「どんな力を持っているのか、どれくらいの力を持っているのか、何に対して力を出すのか……。ひょっとして自分に向かってその力が振るわれるんじゃなかろうか……とな」


 ……そんなこと、一つも思いませんけども?


「そして、今回の、現象から湧き出た魔物を倒した件じゃ。どんな輩でも、こちらが何人いても一体すら倒せぬ現象の魔物。なのにお前さんはたった一人で倒せた。それくらいの力の持ち主であることは知られた」


 まぁ……あの魔物を倒せたのはは事実ですけども?


「そんな力の持ち主と、ちょっとしたいざこざを起こして、その力がこちらに向けられたとする。……マッキーのその気がなかったとしても、命を落としかねない事態になりかねなかったりしたら……」

「お前さんに使う気はない、ある、という話じゃない。相手が、お前さんがあの力を使うんじゃなかろうか、と恐れる事態になることが問題での」


 相手の立場に立て、という話ですか。

 面倒な展開になってきた。


「村の危機を救ってくれた恩人が、同じ村民の手によって害される、というのが問題でな」


 ……一応あたしの心配はしてくれてるのね……。


「しかし……他種族と比べて、エルフ族は気位が高い。そんな力の持ち主のことをさらに知ろうとするまでもない。こっちの考えが正しい、と思い込む者もいる」

「その気位の高さゆえに、知性も高いはずなんじゃが、低い者が意外に多い。気位が高いのが原因じゃな」


 はあ……。

 えっと、それが……?


「……マッキー、長老会は知ってるな?」

「え? それはもちろん……。お年を召された、いろんな経験がある老エルフの集まり、ですよね?」

「間違っちゃおらん。じゃがその通りだとすれば……なぜこの五人しかおらんのだろうな?」


 言われてみれば確かに。

 年齢は二百年、三百年も生きてるエルフがいる。

 村というだけあって、その人数は都会とは比べ物にならないほど少ないけど、五人しかいないわけじゃ……あれ?

 何で五人だけ?

 あたしの曽祖父ちゃんも入ってておかしくないのに。


「マッキー。お前を村から追い出すべき、というエルフは確かにいる。だがその理由は、肌の色が違うから、というだけなのだよ」


 えーと……。

 そうは言われても、あたしには何とも……。


「そして、さっきも言った通り、今回の件でお前さんの持つ力がいつ村民に向けられるか分からない、という理由で村から出て行ってほしい、と思う者も出始めておる」


 勝手に決め付けられても……。


「それが、知性が低い、ということだの」

「ワシらも、マッキーには村を出て行ってほしいと思っておる。だがそんな単純な話じゃあない。長老会に所属している者は五人しかいない。気位が高いせいで、正しい知識を得ることができず、知性が低く、それゆえ、知恵も豊かではないから、だな」


 は、はぁ……。


「知性を高める努力はできるのに、しようともしない。これは、我らがエルフ種の衰退にも繋がる」


 話が壮大な方向に進みそうなんだけど……。

 あたしとどんな繋がりを持ってるの?


「努力せずとも日常を過ごすことができる。これは問題だ」


 努力せずに……というところが妙に引っかかってるね。

 一体何なの?

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