村のために みんなのために なのに、村から出るように言われちゃった

 いきなり目が覚めた。

 いつの間にか寝てたのか、と気付くのは意識が飛んだ時じゃなく、大概目が覚めた時。

 そして、今まで何してたんだっけ? と記憶も飛んでる。

 そして、あぁ、そう言えば……と思い出す。

 そして、気付く。


「あ……。やらかしちゃったんだっけ」


 と、声にならない声がつい出てしまう。


 ここまでの流れは、意識が戻って一秒も経たず。

 目は当然開いてるけど、見ているものは視界に入っている物じゃなく、その辿った記憶の中の出来事。

 その目が現実に戻ると、見たことのない天井。

 そして、初めてのふわふわとした布団の感触。


「ここ……ど……あ……」


 そしてその瞬間に目に入った、家族達の顔。

 みんなが怒ったように泣きそうな顔をしていた。


「マッキー! あんたって子は……っ」

「お前……ほんとに……」


 言葉にならない。

 それに、そんなことを言われても、あの後どうなったのか全く分からないままなんだけど。


「えっと……」


 こっちも聞きたい事はある。

 あの後みんなどうなったのか。

 けれど、聞く気力がない。

 体がだるい。

 体の調子はしばらく戻りそうにない。


「みんな、その辺にしときなさい」


 年老いた声が、みんなの後ろから聞こえてきた。


「ちょ……長老……」


 あたしの周りを囲っている家族達の間をかき分けて、村一番の高齢のエルフが姿を現した。

 その老エルフに続いて現れた、数人の老エルフ達も。

 でもみんなの姿は腰から下は見えない。

 年老いたエルフ達はみんな、胸までしか見えない。

 誰もがやや腰が曲がってるし、背も縮むようだからそうなんだろうけど……。


「えっと……あの……」

「マッキー。起き上がらんでいい。……家族のみんな、席を外してもらえんか?」


 起き上がりたくても体が重い。

 ……体重が重い、という意味じゃなくて。


 そんなことより、今の状況を知りたいんだけど。

 まずここ、一体どこなのよ?

 あたしにいろいろ教えてくれる前に、あたしの家族をどこかに追い出すってのもどうかと思うんだけど……。


「家族に席を外せ……って……。いくら長老でも」

「あぁ、先生も席を外してもらえんかな?」


 先生?

 えーと……。


「……あまり時間を長くとらないでくださいね、長老。いくら意識が戻ったとはいえ、相当疲労が溜まってます」

「分かっとるよ、先生」

「な……」

「さ、皆さん方も席を外しましょう。さっさと病室を出たら、長老達の用事もその分早く終って、マッキーさんも早く体を休められるというものです。さ……」


 病室?

 ということは、村の診療所、よね。

 先生、って診療所の先生だったのか。

 その先生が、あたしの家族達をこの部屋から追い出しながら、最後に自分も外に出て扉を閉めた。

 と言うことは、あたしはベッドに寝ていた、ということだ。

 部屋に残っているのは長老達……五人。


 その五人があたしのベッドの周りの椅子に座った。


「さて……まずは、村を救ってくれてありがとうな、マッキー」

「あ……えーと……」


 どう返事したらいいんだろ?

 誤魔化し……は今更だよねぇ。

 あ、いえいえ、ってのもなんかヘン。

 大したことはないですよー……は……。

 こんなに体がだるいから、大したことは十分あるわけだし……。


「話は聞いとるよ。そんなに気を遣わなくてええ」

「あ……はい……」


 でも、村を救ってくれて、って言ってたよね。

 村長さんは……いないもんね。

 村長さんが言うべきことだと思うけど。

 いや、言われたいわけじゃないけど。


「……どこから話していいものか……。とりあえず、体調が戻るまでここで生活しなさい」

「はい?」


 えーと、まぁ確かに疲れすぎて、家に戻っても何の手伝いもできないし、何の力にもなれそうにありません。

 それは素直に従うしかないわけで……。


「そして、体調も体力も、魔力も戻ったら、村を出なさい」

「えーと……え? はい?」


 村を……出なさい?


 えーと……。


「あの、長老……?」

「何だね?」


 ……ボケてるのだろうか。

 自分の言ったことに、何の不思議も感じてなさそう。


「あの……村を出る、とは……」

「……魔物の雪崩現象から現れた魔物一匹を、マッキー一人で討伐したそうだの?」

「あ……えーと……」


 素直に「はい」って言っとくべきだろうか?

 なんか、自分の力に自惚れてる、と思われそうな返事でやなんだけど。


「……マッキーの活躍を目にした者達から話は聞いとる。それと……ナンナ、だったかの? マイフ、お主の曽孫だったか?」

「うん。……曽孫のナンナを助けてくれて、ありがとうな……」


 そういえば、長老と一緒にいるこの老エルフ達は、長老会って集まりを作ってた。

 その一人が、昔から一緒に遊んでた子の一人の曽祖父さんだったのね……。


「ほかの曾孫は……間に合わなんだが……。あの家の一番上の曾孫のラナスは……」

「あ……えーっと……」


 既に一人、犠牲になってたらしい。

 ということは、あたしの家に報せに来てくれたエルフの隣の家からそこまで移動して来てる間にも……。

 被害者はゼロじゃなかった、ってことか……。


「マイフ。そういうことは言うもんじゃなかろうて。マッキーがどう答えていいか困っとる」

「あ、いや、そういうつもりはなくて……。いや、助けてくれて、ありがとうな、マッキー」


 犠牲者がいるなら、あたしからは何も言えない。

 最初から決心して事に当たっていたら……る


「それはともかく、今言うた通り、体が元に戻ったらば、村を出なさい」

「あの……それは……どうして……」


 いきなり出ろと言われても。

 何か悪いことでもしたんだろうか。


 ……いや、してしまった。

 現象の魔物を倒せる力があるのに、倒しに行くことを決めるまで時間がかかった。

 助けられたはずの命を助けられなかったから。

 それが、長老会の一人の曾孫が犠牲者の一人となってしまったら、そりゃ……。


「その説明にこそ、ちと時間がかかるものでな。ちょっと聞いてもらいたいんだよ、マッキー」

「……え?」


 今回の件が理由じゃない?

 ……あ……。

 洞窟掘りの件でなにかやらかしただろうか。

 それとも、倒木粉砕の件?

 ……ドラゴンの首落としもやらかしたっけ。


 あたしの知らないところで、村に損害を与えてしまったんだろうか。

 この力を出すたびに、そんな被害が出てしまうのであれば……。

 そりゃ、村を追い出されても仕方がないのかな……。


「心、というのは、実に複雑でな」

「あの、あたし……え?」

「それに、マッキーの肌の色、じゃな」

「はい?」


 そんなことを言われても、話が全く繋がりそうにない。

 どういう話を聞かされるんだろ? あたし……。

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