来世はエルフと言われたが、ダークエルフなんて聞いてねぇ! その3
現象から出てくる魔物共が全滅した、とのことで、あたし達の日常も戻ってきた。
けど、また不自由な日々がやってきた。
と言っても、その時のような外出禁止じゃなかった。
父さんからそれを告げられたのは、二日後の朝ご飯の時だった。
「森で遊ぶのは構わないが、山の方面に近づかないように」
村は森に囲まれている。
南側の森を抜けると、人間が住む村が見える草原がある。
逆の北側は山脈。
山の奥には、大きな魔物が棲んでると言われてる。
種族はドラゴン。
みんな知ってるんだけど、そんな風にあやふやな言い方をしてる。
こっちからちょっかいを出さなければ、向こうもこっちに敵意を見せることはない。
けど、ドラゴンが仕留められたら、とんでもない取引が行われる、と聞いた。
皮膚から骨まで、余すことなく人間の店に売られるとか何とか。
その額が桁外れとか何とか。
一攫千金を狙って、山に立ち入る人間達が増えたら困る。
こっちまでとばっちりを食うこともあるから。
ドラゴンたちにとっては、人間もエルフもそんなに変わらない存在なんだろう。
で、なぜそんな制限をされたかというと……。
「現象の魔物共の何体かは、山の奥の方にまで移動してたらしいんだ」
それを聞いて祖父母と母は「え?!」という驚きの表情を見せた。
もちろんあたし達には、それが何を意味するか分からない。
「ドラゴン達もそいつらと争った形跡があるとかあったとか」
「ひょっとして、住処を追い出された、とか言うの?」
母さんの心配は、有り難いことに外れてくれた。
だが当たったところもあった。
「はぐれたドラゴンが、山を下りてくるかもしれない、とのことだ。こっちはドラゴンには生活するには適さない場所だから、どこかかで行き倒れてくれりゃいいが……」
ドラゴンとか、それに同じくらい、あるいはさらに体格が大きい種族は、ここら辺に来ても食べる物が足りなくなる。
山脈の方には、どんな生き物や植物があるかは分からないが、そんな巨体でも満足できる食料が山ほどあるんだろう。
だから、こっちに来ることはない。
普通であれば。
しかし普通じゃないことが起きた。
現象から出現した魔物の侵攻。
この世界では、種族としては、一対一の戦闘なら他の種族は勝てる術がない。
そんなドラゴンですら苦戦し、そのドラゴンを打ち負かすこともある現象の魔物。
住処を追い出されるドラゴンがいてもおかしくはない。
そして住処から離れてしまったドラゴンは、その山を越えてしまうと、住処に戻れないこともあるという。
いくら巨体とは言え、この村に来ても山の向こうを見下ろすことができるほど、そこまで大きな体じゃない。
帰る方向を見失い、迷いに迷った挙句空腹のあまりに倒れ、そのまま飢えて死ぬドラゴンも、年に一体か二体はいる。
もちろんその場所はこの村、あるいはその付近とは限らない。
だから、この村の長老ですら、そんなドラゴンは一回くらいしか見たことがない、という程度。
それでも、そんなドラゴンと遭遇するようなことがあったら、まず助かることはない。
食えそうな物なら人間だろうがエルフだろうが獣人だろうが、食欲の本能に身を任せて移動しているのなら、丸呑みしてしまうだろう。
当然それでお腹が満たされるはずもない。
住民を食べようとするドラゴンに、村が襲われるかもしれない、という話だった。
「けどまぁ、村に近い範囲なら出かけても構わない。けど、周囲には注意しろよ?」
あたし達は元気に「はーい」と返事をした。
今まで村に出ることも危ぶまれてた。
それが、制限があるとは言え、森に入ることは許されたのだ。
うれしくないはずはない。
※※※※※ ※※※※※
父さんから、森での行動範囲を制限されたけど……。
子供だったあたし達に、その制限の影響は全くなかった!
大体森深くまで進んで行ったら、ご飯の時間に帰りが間に合わなくなっちゃうし。
何より、すぐ疲れるから、早く帰りたいー、と泣いてごねることもあるかもしれないし。
食料を探す大人にとっては不便この上なかっただろうけど、遊ぶだけを目的にして森に入るあたし達には、普段の日常が戻ってきたって感じだった。
けど、日常は普通になったけど、あたしは普通じゃなかった。
なぜか、なかなか弓の腕が上がらない。
その代わり、妙に魔力を蓄える量が増えていく。
そして魔力の放出が上手くいかない。
友達と一緒に遊ぶ分には不満はないし、あたしも深刻になることはなかった。
けど心配してくれる友達も増えてきて、遊びに気持ちが入らないことが多くなる。
そして……。
「マッキー、相変わらず魔力が暴発するけど、被害がマッキーにも、僕らにもないのが不思議だよね」
「でもその度にマッキーの服、ボロボロになるよね」
「家族から怒られない?」
衣服は樹木の皮や葉っぱなどで作られる。
材料はそこら中にあるから、衣類ならいくらでも作ってもらえた。
弓矢は、魔力を何度も暴発させてたせいか、暴発しそうになると遠くに投げ飛ばす。
おかげであの時以来弓矢を無駄に壊すことはなくなった。
それでも衣服は母さんとお祖母ちゃんに作ってもらってたから、その手を煩わせることが多くなってしまった。
流石に服を全部脱いで遠くに投げ飛ばすのは無理だった。
「おこられないけど、ちょっとあきれられるようになったかな……」
お祖母ちゃんは、「マッキーのおかげてまた忙しくなったねぇ」などと言いつつも、うれしそうにあたしの服をたくさん作ってくれる。
着る物がなくなって困ることはないけど、うれしそうにはしてるけどちょっとお祖母ちゃんに申し訳なく感じた。
「こんど、ふくのつくりかた、おばあちゃんからならってみようかな……」
「あ、それ、いいんじゃない?」
「覚えたらあたし達にも教えて―」
肌の色が違う。
弓矢の扱いが、他の子と同じくらいにできない。
魔力の量、質が他の子と異なる。
けれどもこの頃はまだ、みんなと仲良く遊んでいられた。
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