来世はエルフと言われたが、ダークエルフなんて聞いてねぇ! その2
他のエルフとは肌の色が違うダークエルフとして生まれた。
けど、日頃から差別を受けたり暴力を受けたりということはなかった。
ただ、大人達からは奇異の目で見られたり、変に怖がられることはあった。
普通のエルフと違う扱いをされたのは、子供の頃はただそれだけ。
特別な力はその頃はまだ感じられなかった。
そして、子供だったから、大人並みの力は当然なかった。
同年代と比べて、やや力は及ばなかったが、気にならない程度。
ごく普通のエルフの子供と、ほとんど変わらなかった。
※※※※※ ※※※※※
そんなある日の晩ご飯のとき。
みんなが揃ったところでお父さんが話を始めた。
「飯を食う前に、伝えなきゃならんことができた」
「なんじゃ、ロイス。何ぞ噂でも聞いてきたか?」
お爺さんが、食器に伸ばす手を止めて、父さんに聞いた。
「あぁ。人間達から聞いた話なんだが……」
大人達はみんな眉をひそめた。
人間とはあまり関わりを持ちたくはないエルフ族。
そんな連中とは、必要なこと以外話したくないどころか、目も合わせたくもない。
それでも聞かなきゃならない話を聞いてきた。
ということは、よほど重大な話、ということだ。
「奴らが言う、魔物の泉とか何とかっていうのが起きてるんだと。たまに見るよな? 真っ黒な姿をした変な奴らの集団」
「まっくろ?」
あたしは、その言葉につい反応してしまった。
父さんは苦笑いしてた。
「あはは。マッキーも色黒だけど、真っ黒じゃないだろ? 大体、遠目からでも顔の可愛さがすぐ目に付くからな」
頭を撫でられた。
父さんからの話は空気をとげとげしくしたけど、撫でられた時は、ちょっとだけうれしくなった。
「人間も忌々しいものだが、それ以上にあの魔物は厄介なもんだからのぉ……」
「その現象とやらは、ここからは遠いらしい。けど、その場所から一番近い村がここだっていうんでな。みんなもしばらくは森には遊びに行かないように」
あたしも兄弟みんなと一緒に元気に返事をした。
一番上の兄が父さんに聞いた。
「で、いつまで我慢すればいいの?」
父さんは腕組みをして顔をしかめた。
返事に困った様子だった。
「……人間どもの仕事次第、かなぁ。一か月……いや、二か月くらいは森に入っちゃいかん」
「えー? そんなに我慢しなきゃダメ―?」
森の中は楽しいことが一杯だ。
虫や鳥、動物がたくさんいる。
狩りをしたり木登りをしたり、遊びに事欠かない。
けれど、村の中は、何がどこにあるのか殆ど知り尽くしている。
何が起きるか分からないワクワク感がどこにもない。
そんな場所に籠っていても、楽しいことなんか見つけようもない。
「我慢しなさい。……昔は人間どもは、勇者とやらを選んで、そんな魔物達をあっさりと倒してくれたらしかったがのお」
「父さん……またその話? 流石に聞き飽きたよ。お祖父ちゃんからも聞かされてたからさ……」
父さんはうんざりしたような顔をした。
あたしは、一瞬どきっとした。
「聞き飽きた……って何? 僕ら、それ、初めて聞いたような気がする」
「あたしもー」
「俺も」
どうやら父さんは、お祖父ちゃんと曽祖父ちゃんから何度も同じ話を聞かされてたらしかった。
でもあたしは、お兄ちゃん、お姉ちゃん達と同じように、二人からその話を聞くのは初めてだった。
間違いなく初めてだった。
なのに、どこかで聞き覚えのあるような感覚。
すると突然、前世の勇者の頃のことが思い出された。
その一部だったけど、それでも突然目の前が明るく開けたような感覚を覚えた。
、
「ワシが子供の頃、ワシの祖父ちゃんから、とワシの父さんと一緒に聞かされた話じゃった。それまでは人間から勇者とか何とかってもんが選ばれてたようじゃった。だがある時から、勇者と呼ばれるモンはいなくなった。今から千年くらい前の話になるかの」
「千年?!」
思わず驚きの声を上げてしまった。
ということは、前世と今世の間は千年以上空いている、ということだ。
あたしの驚きは、そんな歳月の隔たりに対して。
けど家族みんなは、数えきれないくらいの長い年月が存在する、ということであたしが驚いたと思ってるようだ。
勘違いしてくれたことに、あたしは胸をなでおろした。
「はは。マッキーは、千年なんて想像もつかんかな? ……思い返せば、旗手っちゅーもんと入れ替わるように消えたのかもなぁ」
「キシュ?」
あたしは聞き返した。
前世の記憶にはない言葉。そして初めて聞いた言葉だった。
前世では、あたしは勇者に選ばれた。
けどその勇者がなくなったという。
その代わりにキシュなる者が現れた、らしい。
「……そんな人間の仕組みとかどうでもいいよ、お祖父ちゃんっ。俺らはその魔物達と戦ったことはあるの?」
「ないな。どこぞの村ではあったかも分からんな。じゃが、エルフがその魔物を倒したことがあったんだとしたら、たとえどんなに離れていようが、同じ種族の話じゃ。伝わらんはずがない。旗手共なら、その魔物共を討ち滅ぼしたっちゅう話は何度も聞いたな。」
その話を聞いたあたしは、どこか気が抜けたような感じを覚えた。
と同時に、またも思い出す、勇者時代に受けた辛い思い。
今にして思えばその話を聞いた時のあたしの感情は、じゃあ積み重ね続けたあたしの辛い経験に何か意味はあったの? と誰かに訴えたい思いだった。
でも、その相手がどこにもいない。
そんな虚しさは、家族にはもちろん分かるはずもない。
しかし、誰もあんな辛い思いをせずに済むようになったことへの安心感もあった。
そこから先は上の空。
「父さん。もう昔話はいいじゃないか。みんなすっかりお腹を空かせてるし」
しばらくして、父さんのそんな声が聞こえ、またいつものように楽しい食事の時間が始まった。
そんな時間も終わる。
翌日からは森で遊ぶ外出は禁止、と父さんからきつく言われ、祖父母の監視の下、つまらない日々が始まった。
が、そんな毎日は意外にも早く終わりを告げた。
その話を聞いてから十日もしただろうか。
魔物達が全滅した、という噂が流れてきた。
その噂が本当かどうか、村の代表が外部に確認しに行った。
その確定に一日を要し、それから普段通りの毎日が再開された。
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