奴らは寝苦しい夜にやってくる その2

 晩飯の時のそんな会話が交わされてから四日目の夜。

 コーティの魔法、本当に有り難かった。

 涼しさを感じる。

 けど、腹を冷やすわけにはいかない。

 普通に掛布団をかけて眠る。

 寝汗はかかない。

 暑くなるかもしれない、という心配はなかった。

 快適な夜が続いた。

 しかし……こっちの世界でも、にっくきあいつらは存在していた。


 ※※※※※ ※※※※※


 ぷーん。


「んん……」


 ぷ~ん。


「んー……んん……」


 ぷうぅぅーん


「んぁ……」


 ぷうぅ


「うるせえっ。くそ……眠れねぇっ!」


 まさかこっちの世界にきて、また彼の羽音に悩まされるとは……。

 考えてみりゃ、店を構えて初めての季節。

 これまで、ここまで囲まれた空間で眠るときは、宿に泊まった時だけ。

 野宿してたときは荷車の中で寝てた。

 だがあんな場所での連中の獲物は、俺らよりもローリスクハイリターンな奴らがいたんだろうな。

 この音に悩まされたことがなかった。

 宿では、その対策が立てられてたんだろうな。

 つまり、そんな連中の存在すら忘れていた俺の頭の中じゃ、連中への対策だって考えられるはずがねえ。

 となれば、こんな風に安眠妨害されるまで気が付かなかったのも仕方ねぇ。

 けど現実問題、今はゆっくり寝てぇんだ!

 せっかく心地よい涼しさを用意してもらったってのによぉ!


「……くそっ! 眠気が飛んじまった……。魔法で退治して……って、あいつらにそこまで甘えてらんねぇか」


 しかし、眠気が去ったって、このまま眠らずにいるわけにもいかん。

 夜の十一時か。

 殺虫剤は置いといてなかったよな。

 何でこんな時に限って……。

 いや、今そんなことを愚痴ってる場合じゃねぇ。

 ウダウダ考え事をしてる合間にも、耳元でぷんぷん音を出しながら空中で俺に纏わりついている。

 ……その数、三匹。

 気配で分かる。


「叩き潰せねぇ。殺虫剤がねぇから薬を撒く手もなし。……打つ手、ねぇのか?」


 最終目標は、三匹の息の根を止める。

 俺に魔法が使えたら。

 ……いや、待て。

 魔法を使う手段ならあるじゃねぇか。

 魔球って手段がよ。

 でも……どうやって退治する?

 いや、この場合、俺がこいつらをどうしたいかってのを考えるべきだ。

 ……燃やしたい。うん、燃やしたい。

 けどそれをやったら火事になる。

 じゃあどうするか。

 飛べなくなったらいいんじゃねぇか?

 血を吸われて痒くなるだけなら我慢できる。

 けど、安眠妨害は腹が立つ。

 うん、飛べなくさせてやろう。

 羽根が使い物にならなきゃいいってことだよな。

 羽根をもぐ。もいでやる。

 どうだ?

 うん、無理だ。

 叩き潰すことだって無理だってのに、それよりも目標が小さい羽根をどうにかしようってのが土台無理な話。

 なら、疲れさせるとかして、羽根が重く感じるようにさせればいい。

 羽根が重く……?

 あ、湿らせて重くさせたらいいんじゃねぇか?

 けど飛べなくしたとしても、羽根が乾いたらまた飛ぶよな。

 待て待て。

 飛べなくなったら、高さはゼロの位置にいるってのは確実なはずだ。

 羽音が聞こえてきた時に飛べなくする。

 そうすりゃ布団か床の上に落ちるはず。

 その距離感は、気配で分かれば、狙いすまして床の上に落とすことはできるはず。

 でもその後どうしよう?

 踏みつぶそうにも、寝てる間なら羽根が乾燥してまたプンプンうるさく飛び回るだろう。

 そこんとこは……いや、待てよ?

 湿気を多めにすれば、当然水分も床に溜まる。

 水溜りに落としたら溺死するんじゃね?

 幸い部屋は土足仕様だ。

 少しくらい水が溜まっても靴の中にまで浸みることはない。

 その水が部屋の中で被害を出すことはない。

 となれば早速行動。

 まず湿気を出すための水の魔球。

 そして床を覆う感じで水溜りを作る、そのための水の魔球。

 水の魔球が二個必要ってことだ。

 うん、ある。

 プンプン飛び回る忌まわしい蚊どもめ。

 こっから俺の逆襲が始まるんだ! 見てろよ!

 まずは先に水溜りを作るか。

 布団や家具に被害を出さないようにな。

 もちろんサンダルでも問題なく部屋の中を歩き回れる水量だ。

 そして次に湿気をあげて、落下する時も布団の上には落とさないように気流を変えられるように……。

 よし。

 明日の朝が楽しみだ。

 目に物を見せてやるぜ!

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