深夜の孤軍奮闘編

奴らは寝苦しい夜にやってくる その1

 気候は、俺の住んでた日本とほとんど変わらない。

 まったく変わらないわけじゃない。

 こっちの日本は、大陸の一部。

 俺んとこは日本列島だったからな。

 それでも、四季はあるし、梅雨もある。

 降雪もあるが、積雪はあるところとないところがあるようだ。

 当然暑苦しい季節もあるから、寝苦しい夜もある。


 ※※※※※


 いつもの晩飯の食事会。

 手伝い達はそれぞれの場所でそれぞれ配給された俺のおにぎりを食ってる時間帯だ。

 行商時代は、普段以上に健康管理に気を付けていた。

 が、店を開いて手伝いが来るようになってからは、肉体的にも精神的にも、だいぶ楽な生活になってる。

 こんなに気を緩めて生活できるなんて、生まれて初めてだ。

 俺の存在の無視、意地悪、迫害、その他諸々、気の休まる暇なんかなかったからな。

 そのくせ俺の周りは全員、気楽な生活を続けてた。

 ……もう忘れていいんだけどな。

 つい昔のことを思い出し、その時間を俺に返せ、と絶叫したくなる。

 もちろん、その相手を特定できないまま。

 あまり意識をしてるつもりはないが、相当恨みの根が深いってるってことだよな。

 毎日が平穏になればなるほど、過去の出来事へのそんな思いが強くなる。

 過去のことをくよくよしてもしょーがねぇんだがな……。

 比べて、この国の前国王にはそれほど恨みはない感じだ。

 目標が、俺じゃなくて俺が持つ能力の歴代の持ち主って感じだからかな。

 まぁそれはいいや。

 そんなことで時々気分が落ち込むことと、最近暑くて寝苦しいこともある。

 コンディションは落ちてる上に、食欲がない。

 もちろん風邪か何かじゃない。

 ということは……。


「ねぇ、アラタ」

「んー?」


 考えてみりゃ珍しい。

 コーティの方から話しかけられた。

 いつもは俺が何かを言って、それに辛辣なコメントをかぶせてくるパターンが多かったから。


「あたしらは別に問題にしないけどさ」

「何がよ?」

「具合悪そうじゃない?」

「……病気じゃなさそうだからな」


 コーティのくせに気を遣ってくれてんのか。

 まぁ、ちったぁうれしいけどよ。


「今日の集団戦の相手の人達から聞いたんだけどさ、夏バテ?」

「あー、そう言えばそんなこと言ってたわね。……なんか、その話その物じゃない? アラタ」

「あんたもそう思うよね? マッキー」

「テンちゃんは、いつでも元気―っ」

「ライムモ、ゲンキー」


 はいはい。

 構ってもらうために注目されるかもしれないようなこと一々言ってんじゃねぇよ。


「なんら、俺らと一緒んとこに寝るかよ? アラタの兄ちゃん」

「チカハ、イツデモカイテキ」


 いや、流石に夜昼の時間の流れを感じないところで寝るのは、ちと怖い。

 それにほら、抗生物質が効きにくい連中もうようよしてそうだし。


「そこは遠慮させてもらうわ。大体体中泥だらけになるし、酸素も気になる」

「それもそうだいなぁ」


 考えるまでもねぇだろうに。

 で、コーティが俺に珍しく気を遣うってのは、何か裏でもあるのか?


「なんでも、夏バテってのがあるらしいじゃない?」

「あぁ、あるな。……そう言えば、こっちに来てからこんな疲れは初めてな気がする」


 ひょっとして夏バテかもしれん。

 でも、そんな風に労わってもらえたのは……こっちに来る前はなかったなぁ。


「まぁ……あっつい風呂に入ってすぐに上がれば何とかなるだろ」


 揮発熱で涼しく感じるってやつだ。

 気温が高いと、扇風機はあまり役に立たん。

 熱風しか来ないからな。

 エアコンは気持ちいいだろうが、何となく体に合わない気がするんだよな。

 まぁ電気がなければ電気製品もないから、あーだこーだというつもりもない。

 それにしてもどういう風の吹き回しか。

 涼しい風の吹き回しなら有り難いが。


「でも健康維持は大事な事でしょうに。それで、みんなの部屋に、冷却の魔法かけてあげようかって思って」

「……それもそうか。だが俺は、あまりきついのは好きじゃねぇな」


 エアコンの涼しさに慣れると、更に室内温度が高く感じるんだよな。

 それで更に設定温度を下げると、今度は寒くなるから、体内調節って言うのか? 体に疲労を感じるんだよな。


「微調節なんか目じゃないわよ。一人一人の希望通りにしてあげるから安心なさい」


 おぉ!

 小さい体が頼もしく見える!

 何だこの目の錯覚は!


「それ、あたしにもしてくれんの?」

「あったり前じゃない。テンちゃんだけじゃないよ? ヨウミもマッキーも、サミーにも。ライムにも」

「ライムハ、ヘイキダヨ」


 変温動物。

 もとい、変温魔物か?


「俺もいらねぇやな。ンーゴもだろ?」

「チカハ、イガイトスズシイカラナ」

「俺はあ、冷やしてほしいなあ」

「もちろんいいわよ」

「ミッ。ミーッ」


 サミーは両腕で地面を交互に叩く。

 これは否定の意思表示だ。


「てことは、ライムとサミー、ミアーノとンーゴには不要で、ほかは必要なのね。分かった、やっとくね」


 寝苦しい日々からは解放された。

 が、それがまさか、あんなことになるとは……。

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