王宮異変 後日談その1

 王宮を後にしてからのこと。

 到着場所はミアーノとンーゴの寝床のそばの、いつものフィールド。

 そこから浅い森を抜けて、ようやく我が家に到着。

 ここを出発した時は村の出入り口からだったから、まさかそこから戻ってくるとは思ってなかったらしい。

 驚いて目を思いっきり見開いていたヨウミは、すぐに我に返って俺に向かって突進。

 泣きじゃくられた。

 ヨウミのそんな姿を見たのは初めてのような気がする。

 みんなの無事も喜んでくれたはいいか、そのまま腰が抜けたようにへたり込んだ。

 安心したと同時に眠気が襲ってきたんだろうな。

 それは俺らもおんなじだ。

 ンーゴは荷車の車庫で、体のほとんどをはみ出しながら。

 他は洞窟の中のそれぞれ部屋で爆睡。

 目が覚めたのは翌朝だった。

 朝の新鮮な空気を吸ってリフレッシュしようと思って外に出た。

 冒険者達が大勢押し寄せてきていた。


「あそこに行ってみたら、お前ら既に帰った後ってんだからよお!」

「お前らを助けに颯爽と参上したら、あの王子になんかの術で無理やり止められてよお」

「ま、俺らが駆け付けることを知らなかっただろうから、それも仕方ねぇってば仕方ねぇか?」


 駆け付けてくれることは知らなかったけど、近づいてきてたのは知ってた。


「まぁ無事で何より、よね?」

「あぁ。結果オーライだ。けど昨日の今日だ。営業はいつも通りってのは無理だろ?」

「って言うか、無理しない方がいいわよ? ヨウミちゃんも取り乱してたしね」


 ほほう。

 イジってもいいかな?


「あまり揶揄わないようにね? 心底心配してたみたいだったから」


 メーナム……。

 お、俺の心を読めるってのか?

 恐ろしいヤツ……。

 まぁそれはともかく。

 流石に今回は、恩に着るとか着せたくないとか、そんな些細なことを言ってる場合じゃねぇよな。

 何かをしたいだのしたくないっつー問題じゃねぇ。


「あー……今回はみんなに」

「あぁ、そうだ、アラタ」


 人の発言を途中で止めてんじゃねぇよ。


「何だ? ゲンオウ」

「今回は、俺達が勝手にお前らのことを心配して駆け付けたんだ。アラタから何かの要望があったわけじゃねぇし、報酬の契約だって言わずもがな。ま、二、三日はゆっくり休むんだな」

「え? おい、お前ら……」

「おい、ゲンオウ。二、三日、なんてあやふやな事言われちゃ、集団戦の訓練の予約を入れた俺達が困る。今日入れて三日休みな。四日後に来るから。お前らも……ほかのチームもそれでいいよな?」

「おう、俺達ゃ構わんぜ?」

「じゃ四日後に変更ね。その間、そっちはゆっくり過ごしなさいね?」


 店の休暇は、こんな風な冒険者とのやり取りで決められてしまった。

 恩がどうのってのよりも……気を遣わせちまったな。

 お返しは……やっぱり店の営業でしか返せねぇなぁ。


 ※※※※※ ※※※※※


 店の臨時休業は二日目。

 早朝、ヨウミが一通の手紙を持ってやって来た。


「戴冠式ぃ~?」

「うん。シアンのだって。その招待状、来てるよ?」

「タイカンシキッテ、ナニ?」

「えっと、新しい国王になりますよっていう式……でいいよね?」


 王宮から戻ってきた日の夜から、ミアーノとンーゴもこの洞窟をねぐらにしている。

 つまり、俺達全員、朝からここに勢揃い。

 朝っぱらから騒がしいのはご免だが、賑やかなのは嫌いじゃない。

 聞き慣れない言葉には、みんな興味津々だ。

 けど、その説明は大雑把すぎないか?

 まぁ間違っちゃいないけど。


「新しい国王って、シアンのこと?」

「そうね。王妃か王子が国王になる一番近い立場だけど、シアンのお母さんじゃなくシアンが国王になるって」


 王妃が王になったら女王様だよな。

 ……まぁどっちでも、今までよりはまともになりそうだな。


「シアンが国王ねぇ……。この国、大丈夫かしら?」


 国家レベルの辛辣さだな、コーティ。


「大丈夫じゃなくなりそうだったら、あたし達が王宮に押しかけよっか。空を飛んだらすぐに到着できるし」

「地下は、ごめんだなあ」


 モーナーも毒を吐くようになったか。

 いや、この場合は皮肉でいいのか。


「モーナー、穴掘りは得意なんでしょ?」

「そうは言うけどなあ、マッキぃ。あの時もお、穴掘ろうかと思ったけどお、上の建物が崩れたらあ、かなり困ると思ってなあ」

「オレモ、ユカニアナホッテ、デヨウトシタケドナ。ミンナドコニイルカワカンナカッタシナ」

「俺とンーゴだけだったらよぉ、遠慮なくあちこちに穴開けて脱出……だけならできたんだら。だども、みんなほったらかしは流石に心苦しいわな」


 けど、下手に手を出さずに済んだおかげで、地下の構造の強度はほとんど変わらなかったってことだよな。

 そのおかげで修復は後回しにできたってことか。

 それにしても……その手紙……不審な点が一つある。


「ヨウミ……」

「何? 出席、する方がいいと思うんだけど……」

「ここに住所って……あったんだ」

「そこ? 気になるとこ、そこなの?」


 だって、何でここに届いたか分かんねぇもん。

 気になるじゃねぇか。

 ヨウミから手紙を受け取って見てみた。

 何て書いてんだ?


「……サキワ村、番外地1……。番外地だったのか……」

「番外地2もあるみたい。今はだれも住んでないけど」

「どこだよ、そこ」

「ほら、お店のおにぎり転売してた、この崖沿いの村の奥の方の……」


 ……懐かしすぎるぞオイ。

 いや、懐かしがりたくはない類の一件だが。

 いや、住所の表記を気にしてる場合じゃないか?

 あ、きっかけは俺だったか。


「で、中身は……ただの招待状じゃねぇじゃねぇか。来賓席にご招待、って……。面倒くせぇなぁ」

「シアンの晴れ舞台だよ? この後、あたし達とどんな関係になるか分かんないけど……。シアンはみんなを特別扱いしたいってことよね」


 あて先はおにぎりの店ってあるから、この手紙、別にヨウミが中身を見ても問題はない。

 にしても来賓扱いかよ……。

 いや、待てよ?

 この機会を利用しねぇ手はねぇな。


「面倒くさいから欠席、とか言うんじゃないでしょうね?」

「……欠席……するけど、行く……というのはアリか?」


 みんなから注視されてる。


「また面倒なこと考える」

「だってよぉ……一般参加じゃなくて、来賓席だぜ? 裏があるに決まってんだろ」


 来賓席に座っちまったら、その日はそのスケジュールに縛られて終っちまう。

 それじゃダメなんだよなぁ。


「だったら行かなきゃいいじゃない。でもいつものアラタなら、行かないって言うと思ってたんだけど」


 まぁ、それはそうなんだがな。

 けどな。

 この手紙見た瞬間に閃いたことがあってな。

 ま、あいつからの要望、要請があったから行くってんじゃなく、こっちがそれに乗じた用事ができたから行くって感じだな。


「近況報告もあるよ。て言ってもあまり変わってないみたいね。でも……王宮の前の穴……でかいねー。こんなの空けたんだ……」


 王宮とその周囲の写真が何枚か同封されてた。

 書面によれば、しばらくはそのまま放置するらしい。

 地下のこともあるから、費用と時間はかなりかかる。

 ある程度は整地するらしいが、落とし穴のような状態じゃないし通り道も地下も崩落することがなさそうだから、だと。

 ヨウミには、事の成り行きを既に説明している。

 けど、写真を見て改めて驚いてる。

 ヨウミは、実物の王宮は見たことはないらしい。

 それでも大体の予想はついたようだ。

 紅丸のどでかい船の一部もその中に写ってたからな。


「ナンノヨウカハシラナイガ、イクナラマタオレノナカニハイッテイドウスルカ?」


 門の前の穴をそのままにするなら、確かにンーゴの移動手段は使えるな。


「ちょっと待って、ンーゴ。特注の車用意してくれるみたいよ?」

「え? あたし見落としてた? ちょっと見せて、マッキー」

「ヨウミ、こっちの手紙だよ。手紙、三枚入ってた」

「ほんとだぁ。あ、こっちには日程が書いてるよ」

「テンちゃん、日本語読めたんだっけ?」

「勉強しなくても、みんなとずっと一緒に過ごしてたら、そりゃ覚えるよぉ」

「あら? 前泊後泊の宿まで手配してくれるみたいですよ? 当日の時間も……あさの八時半から式典開始、ですって」


 出席確定かよ。

 そっちの都合、押しつけんなよな。


「アラタのあんちゃん、一枚目の裏、シアンの直筆で何やら書かれてんぞ?」

「エート、クルツモリガナイナラ、オクノテヲヨウイシテル、ダッテ」


 ……ライム……。

 お前の目玉はどこにある?

 まぁいいけどさ。


「この国の、最後の盛り上がりを見にいくのも悪くないかも」


 コーティ……。

 お前もなかなかのマイペースっぷりで何よりだよ。

 けどシアンの奴も、移動手段に宿泊先も用意するほど熱望するってんなら……。


「使った魔球の補充まだしてなかったな。買い物ついでに覗いてみるか」


 ……なんでみんなから、ツンデレだのなんだのと囃し立てられるんだ?

 騒がしくすんじゃねぇよ!

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