王宮異変 王宮に向かうアラタ達を見送った後のこと
「あぁ?! 集団戦の訓練ができないってどういうことよ!」
「俺達、どんだけ待ってたと思ってんだ?! 滅多にできない訓練だぞ?! ただ待ってただけならともかくも、楽しみにしてたんだぜ?!」
「みんな落ち着け。アラタは確かにぶっきらぼうな感じはするが、気まぐれを起こすような奴じゃねぇ。それに、あいつがそんな気まぐれを起こしたって、仲間達までそれに従うとは思えねぇし、従ったとしてもヨウミちゃんだけが留守番って変じゃねえか?」
アラタが親衛隊のクリットとインカーについて行った後の事。
たくさんのおにぎりと飲み物を持ってったけど、持って行ける数にも限界がある。
竜車に乗っていったからただ歩くよりもかなり多く持って行ったけど、それでも在庫はたくさんあるから、販売だけなら通常道理営業はできる。
けど、予想はしてたけど……。
騒動が起きた。
チームメイトから宥められる冒険者もいれば、絶望感たっぷりの表情の冒険者もいた。
午後の訓練の予定のチーム三つも、待ちきれずにこんな早い時間にやってきて急遽休みを知った。
まぁ、気持ちはわかるんだけど。
「……訓練前に料金支払うから、金銭的被害はない。でもそういう問題じゃねぇだろ」
「滅多に受けられない訓練が、ただ、受けられなくなっただけ。何か事情があるんでしょ? 魔物の集団戦の訓練って事業、結構価値は高いし、その事はアラタも知ってるはずよ? なのに中止になったってことは、事情があるってことじゃない。我慢なさいよ! リーダーのくせに!」
『図太くなってきたなぁ』
と、アラタから行商時代に言われたことがある。
見つけるとアラタにつきまとう旗手達相手にあしらうようになってから、しばらくしてからだった。
当たり前でしょ?
理不尽な、自分勝手な事ばかりアラタに押し付けるんだもん。
こっちに、言い返す正当な理由があれば、どんな相手でも言い返すくらいはできるわよ。
でもね。
訓練の日が来るのを楽しみにしてる、っていう、予定までかなり間があるけど申し込みをした冒険者達がたくさんいる。
その気持ち、分かるよ。
その日まで、一日、また一日と近づいてくるんだもん。
楽しみにしてる日がちかづいてくるんなら、そりゃワクワクもするよね。
それが突然、こっちの都合で中止になるんだよ?
申し込む人達には、それこそ理不尽だよね。
こっちの事情は、彼らには関係ないもん。
だから……申し訳ありません、って頭を下げるしかないんだよね。
腹を立てる冒険者をその仲間達は宥めるんだけど、その仲間達だって残念に思ってる。
怒ってる冒険者達を宥めてはいるけれど、必ずしもこっちに同情してるわけじゃないんだよね。
でも……。
「なんだあ? 妙に荒れてるじゃねぇか」
「朝っぱらから、みんな元気いいわねぇ」
そこにやってきた男女の冒険者。
もうすっかり見慣れてる二人だった。
「あ、ゲンオウさんにメーナムさん。お早うございます……」
「おう、おはようさん。で……どうした? 開店時間だってのに妙に長い行列は」
「アラタは? って……店の外は騒がしいのに、店の中はいやに静まり返ってる感じね。何かあったの?」
「え、えっと……」
アラタは、日頃から心掛けてることとか注意してることなんかを口癖のように何度も言うことがある。
いい加減聞き飽きた。
けど、その一つって、今のようなことにも当てはまるわよね。
『恩に着せたくもないし着せられたくもない』
でも、あの二人とアラタの三人で何ができるっていうんだろう。
それにほかにも、こんなことも言ってた。
『困ってる奴がいても、助けを求めない限り助けに行かない。けど助けてほしい気持ちがあるなら、助けを求める気持ちがあるなら、できる範囲でそれに応える』
とも。
一番多く口にしていた言葉は前者。
だから、助けを求めたいけど助けてもらいたくないと思う気持ちの方が強いんじゃないのかな。
アラタにずっと付き添うことを決めた以上は、アラタの方針に従わなきゃいけないんだろうけど、そのすべてが正しいとも言えないはず。
これまでの人生経験で得た教訓なんだろう。
でも、この世の中、決して、アラタを都合よく利用しようとする人間ばかりじゃないんだってことは教えてあげたい。
「実は……」
※※※※※ ※※※※※
「訓練はここ限定だろ? 権力に物言わせて、ミルダ市でって……有り得ねぇだろ」
「でもその権力にも屈せずに断るのは、何ともアラタらしくて頼もしいわよね」
「けど連れ去るって……横暴すぎんだろ!」
「何言ってんのあんた! 連れ去る、じゃなくて、完全に連行じゃない!」
「お、おぉ、そうだな」
訓練中止でクレームの的だったアラタの評価は一気にひっくり返った。
これはあたしもうれしいんだけど……。
「でも……親衛隊の二人とアラタで……何かできるのか?」
何もできないよ。
アラタ自身、戦闘力ゼロだもん。
だからといって、あたしが加わっても何の力にもなれないのは変わらない。
「……メーナム。ドーセンに手配してもらおう」
「何をよ、ゲンオウ」
「決まってら。竜車だよ。困ってる奴をほったらかしにゃあできねぇわな」
「ただ働き決定よ?」
「あぁ?! ただ働き上等! 大歓迎だ! つか、投資だよ投資! これからもいろんな恩恵受けるんだからな!」
「アラタは、周りからのそんな決め付けは嫌うみたいよ?」
「いいんだよ! 俺があいつについていくってだけのことだ! それによぉ……相手は腕っぷしぞろいの日本大王国国軍兵士だぜ? 腕試しっつー、いい理由ができたじゃねぇか!」
「なるほど。それならアラタもあたし達に気を遣わずに済むわね。じゃ、ドーセンとこに行ってく……」
「待った」
メーナムを止めたのは、訓練中止でがっくりしてた冒険者の一人だ。
「俺達も便乗させてくれねぇか? あいつらがいねぇと、今後の予定が成り立たねぇ」
「そうだな。待ちに待った訓練日が、そのままキャンセルで予約取り直しってのは目も当てられねぇ」
「それは……俺らも混ぜてもらえねぇか? この店にはずっと世話になってるからよ」
ダンジョンやフィールドの探索予定の冒険者も混ざってきた。
アラタに人徳って言葉は似合いそうにないけど……。
日頃の行動が、どんな気持であったにせよ、その相手に謝意をもらたしたってことよね。
「途中の村や町で呼びかけねえか? アラタがピンチだってよ!」
「そんな暇あるかよ!」
「声をかけてやらねぇと、逆に怒ってくる連中、いるんじゃねぇの?」
「つくづく面倒な連中だぜ」
「あたし達だってそうでしょ? あいつが危険な場所に行くのに、何であたし達に呼びかけなかったんだって」
「ちげぇねぇ!」
「ってことだ。ヨウミちゃん、ここで留守番頼むわ」
「ちょっとあんた! ここあんたの店じゃないでしょ!」
「あ、それも……そうか」
「下らねぇこと言ってねぇで、おめぇも竜車手配してこいっ! 一台や二台じゃ足りねぇからな!」
集団戦の訓練待ちのチームが六。
三十人以上はいる。
そして店に並んでいた冒険者達も同じくらいかそれ以上。
王宮に向かったアラタ達はどうなるか分からない。
けど、ここにいる冒険者全員が応援に向かうと言ってくれた。
心配なのは変わりないけど……こっちは頼んでもないのに、そんなことを言ってくれるなんて思わなかった。
……自分の身を顧みずにこんなことをしてくれるみんな、気のいい人達ばかりだよ、アラタ。
……ん?
メーナムさん、ドーセンさんとこに行きかけて、こっちにきた。
どうしたのかな?
「……ヨウミちゃん、大丈夫。みんな必ず連れてくるから、そんなに泣かないの」
え……。
「帰ってきたら、みんなをゆっくり休ませられる用意しといてね?」
あ……。
う……。
「う、うん……メーナムさんも、みんなも、気を付けてね」
「おう! 任せろ!」
「行ってくら!」
「でもよお……」
ん?
「俺らの思惑と関係なく、あいつらだけで帰って来れたりしてな」
あ……、それは……。
「あー……あるかもなぁ。ま、それならそれで、自分で帰れるだけの体力はあるってことで、いいんじゃねぇの?」
そう、だね。
うん。
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