王宮異変 後日談その2

 シアンに手のひらの上で転がされてる気分なんだよな。


「でもさ、服装はそのままで問題なしって書いてるけど……」

「この時のためだけに一張羅とか用意するの、面倒だし。甘えさせてもらおう」


 シアンの直筆の文章の追伸に書かれてた。

 主役が直々にそう伝えてきたんだから、文句を言われる筋合いじゃない。

 そもそも。


「テンちゃんもライムもンーゴも、基本的には普段から素っ裸なんだよな。……何だよ、その目は」

「いや、あの……ね、も少し言い方をさぁ」

「アラタ、あたしの色気に惑わされそうかなー?」



 誰だよ、テンちゃんにそんなボケを植え付けた奴ぁ。

 返事のしようがねえじゃねぇか。


「……テンちゃんの馬鹿っぷりも磨きかかってきたわよね」

「コーティ、あたしにもきつい事言うんだけどぉっ!」


 自業自得じゃねぇか。

 そもそも色気の話なんざ誰もしてねぇんだよ。


「つまり、全員それぞれ見合った礼服なんて、用意する気はねぇんだよ。その金、どこからも出てこねぇんだし」

「シアンに請求してもいいんじゃない?」

「普段着でいいってんなら、わざわざ服を用意するって発想もなかろ? こっちで勝手に用意した費用をそっちが出してくれるってこともあり得ねぇだろ」

「まぁ……それもそうなんだけど……」


 なんか、ンーゴもテンちゃんが起こした騒ぎに混ざってんだが、構ってられんわ。

 ライムは性別ないからスルーしてるっぽいが。


「でもさ、この式典で何かしたかったの? いつもなら、こんな面倒な事に首突っ込みたがらないじゃない。シアンのことも、なるべく遠ざけがちだったし」

「そう言えばそうですよね。それでも何かをするってときは、必ず何か理由があってのことだし」


 マッキーもクリマーも的確な指摘してくるな。


「隠し事はあ、ダメだぞお」

「ソウダネ。ナイショニシテ、ロクナコトニナッテナイ」

「あー……そんなこと、前にも話ししてらったんじゃねぇかや?」


 ……俺も、なんかそんな覚えがある。ような気がする。

 内緒にしときたかったんだが、仕方ねぇか?


「あー……しょうがねぇなぁ」


 できればその時が来るまでは言いたくはなかったんだがな。


「あー……テンちゃんは、灰色の天馬、だな」

「え? あたし? そりゃ……うん。見れば分かるでしょ?」


 あぁ。

 見たまんまだからな。


「マッキーは、ダークエルフ」

「……間違っちゃいないけど、それが何?」


 これも見たまんま。


「クリマーは、弟と共に、ドッペルゲンガー」

「え? え、えぇ……」


 うん。

 そうなんだよな。


「まずこの三人だ。それと、ンーゴ」

「オレガ、ドウカシタカ?」


 うん。

 どうかしたんだ。


「特に先の三人には共通点がある。そしてその共通点の延長にンーゴも入る。なんだか分かるか?」

「あたしは入ってないの?」

「ミッ」

「俺はあ?」


 コーティもサミーも、ちょっと違うよな。

 モーナーは……ここ限定でなら該当するか?


「おりゃあ入ってねぇのか? この四人にどんな共通点があるってんだいゃ?」


 デリカシーが伴う問題だからなー。


「多分、だけど……嫌われてるってこと? 見たら縁起が悪いとか」


 まさか正解がヨウミから出るとは。

 まぁいいんだけどな。


「あぁ。そしてンーゴは、その見た目から驚かれ、恐れられる。そこから嫌われる傾向が強く思える」

「……偏見よね」

「でも……その偏見を払しょくできない現実もあります……」

「ひょっとしてアラタ、その式典であたし達を何とかしてあげるって?」


 まぁそうなんだが、それだけじゃ馬鹿の返上は難しいぞ。


「ま、ミアーノもコーティもサミーもライムもモーナーも、一般の市民権をそこで得る、ってのが狙いだった。レアな種族であれば、討伐した時に出るアイテムもレア、なんて認識も何とかしたいしな」


 偏見がなかったとしても、こいつらを傷つけたことで何かのアイテムを落とす、なんて噂話が出たらどうなる?

 この店、地獄に変わるぞ?

 こっちだって、やられっぱなしってわけにゃいかねぇ。

 返り討ちにしたら、今度は仲間が敵討ちにやってくること間違いない。

 それに、レアアイテムを落とすって噂の裏打ちになりかねない。


「みんな、珍しい種族だって言う。だからこそ、未知の部分もたくさんある。根も葉もない噂もたくさん出てくるだろうし、その噂によって日常が壊されることだってあり得る。大衆にそのことを訴えるには絶好のチャンスじゃねぇか」

「戴冠式の式典が、あたし達の主張の場に早変わり、ってことね?」

「シアンにい、申し訳ない気もするぞお」

「そういう時だけ仲間面するのも気が引けるがな。その機会をくれるくらい親密な間柄、ってな」

「借り、作りたくないんじゃなかったの?」


 まったく、コーティは痛いところを突いてくる。

 だが……。


「それだけの価値はある、と思う……」

「ほかに、そんな機会はないのかしら? アラタさんが私達にそう思ってくれるのはうれしいんだけど……」

「ないだろ。あるとしても、その間にこないだみたいな夜討ちとかに常に備えるってのも勘弁してほしいし」


 まず俺は、穏やかな毎日を過ごしたい。

 何かしょっちゅうトラブルが起きてる気がするんだよな。

 トラブルがいつも身の回りに起きてるのが普通、っての、有り得ねぇから。


「それに、俺達はこんな普通の住民ですって言うアピールをするのに、普段の格好してなきゃ分かってもらえねぇだろ。おめかしした格好が普段の姿とかけ離れてたら、あの時の俺達と同一とみてくれねぇかもしれねぇじゃねぇか」

「……ソレモ、ソウダナ」

「あぁ。だからンーゴ、お前もそのままの格好で行くからな? 招待状にも、普段の格好のままでいいって書いてんだから。みんなもだぞ? 当然俺もこの格好で行く」

「いいのかなー」


 いいんです。

 おめかししても、その費用はどこからも出してくれません。

 自腹も切りたくありません。

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