王宮異変 その2

「え? シアンさんが消息不明? どういうことなんですか?!」


 その日の晩飯タイム。

 全員が揃ったところで、冒険者達から聞いた今朝の情報を伝達。

 みんなが言葉を失い、ようやくクリマーが声を出した。


「受映機からのニュースは、どれも似たような中身だった。見るアテはない。情報を流さないようにしてるか錯綜してるか……」「……アラタよぉ、おめぇはどうすんだぃ? 仲間だから救出しに行くってんだら、おりゃあ動くつもりだがの」

「助けに行かないとしても……あたしはそれに従う。思うところはいろいろあるけど、ね」

「シアンのおかげで助かったこともあったけど……。でもあたし達がこの世界で……この村で生活できるようになったのは、アラタのおかげだもんね」


 みんなの表情が一様に暗い。

 俺を支持するも、シアンのことが心配なのは丸わかりだ。

 シアンの所に行くか、それともここに籠るか。

 どのみち明日以降の集団戦の訓練は、まともな活動はできそうにない。

 前払い制度にしてなかったのは幸いだ。

 前払いを受け取ってたら、間違いなく暴動ものだよな。

 ……さて……。


「今のままじゃ飯は喉を通らないだろうから、飯前に話しておくか。まず明日からの集団戦の訓練は取りやめることにする。理由は……言わなくていいよな?」


 俯いてる者、俺を見てる者、顔を向く咆哮がみんな違うが、それでもみんなは頷いた。


「うん。で……あ……」


 気分が沈むと俺の能力も下がるようだ。

 その気配に気づいた時には、もうどうしようもない。


「昨日は失礼したな。ふむ。全員揃っているようだな」

「……ミシャーレ……ノーマン……」


 何やらほくそ笑みながらの登場だ。

 しかしその後ろに控えてる連中は昨日とは打って変わって、軍人というか兵士のような出で立ち。

 しかも数え切れない人数。

 多分訓練の受け付けに並ぶ行列よりも多い。

 俺の後方から警戒感が一気に強く発生した。

 みんなの感情がむき出しなのがすぐ分かった。


「昨日よりも遅い時間に来訪されても、何の相手もできませんが……」

「いや何、そんなに深刻に考えてもらわなくてもいいのだよ。受け入れてもらえるつもりで、主力の兵達全員を連れて来た。もちろん応じてくれるな?」


 有り得ない。

 本気で依頼しに来るなら、絶対に日中に来るはずだ。

 いくら肩書が要職だったとしても。

 つまり、俺に……俺達に何かを期待している、ということだ。

 しかもこの依頼、明らかに訳あり、な。


「……軍が王宮で動いた、って話を聞きますが……」

「数日前の話だな。今はそれどころじゃない。現象で現れる魔物どもを、彼らのみの力で殲滅する。その目的を達成するためにミナミアラタ、お前たちの協力が必要だ、と言っておるのだ」

「……しかし噂ではその行動で、王子を拘束するという目的を達成したと聞きました。訓練を行うその相手がうちらってのは、こちらの方が力不足のようにも思えますが?」


 プライドを傷つけずにちょいと突いたら……誰も知らない情報が出てくるんじゃねえか?


「いや、いくらかこちらも負傷者を出した。親衛隊の数人とやりあったのでな。我が屋敷の一棟で大人しくしてもらうつもりだったのだが、やむを得ず、地下牢に監禁しておる。力の差があれば、あの方も痛い目を見ずに済んだのにな」


 まさか、すぐに正確な情報が出てくるたぁ思わなかった。

 でも俺の事、元旗手とかって話聞いたことねぇのか?

 油断しすぎじゃね?

 だが親衛隊数人か。

 誰なのかが分かれば万全なんだろうが、おそらく同じ所にいると見ていい。

 監禁されてるんなら、一刻も早く救出する必要はあるんだろうが……。

 みんなもやる気十分だが、あまり顔に出すんじゃねぇぞ?


「なるほど。しかし訓練の場所も、それなりに広くないと実にならないでしょう。仲間達の姿の形状、大きさ、重量、それぞれ個性的で、訓練の場所探しとなると、ただ広い場所であればいいというものでもなく」

「……もうよい」

「え?」


 ミシャーレは片手を上げると同時に険しい表情に変わった。


「ひっ捕らえろ! こいつらも王宮に連行だ!」

「あ?」


 俺とヨウミは大勢の兵に取り囲まれた。

 身動きが取れない。

 抵抗したところで無駄だろう。

 その手段は、せいぜいシアンからもらった魔球のみ。

 効果は俺の意志通りに変化させられるが、この場凌ぎのためだけには使えない。

 シアンが拘束されている以上、使用した分の補充ができるとは言えない。


「エ? ナニスルノ?」

「わ、私達、何もしてないですよ?」

「アラタぁ! 何よこれ!」

「黙れ! 動くな!」


 みんなも兵達に取り囲まれてるようだ。

 俺の周りは兵の輪の壁。

 そのせいでその向こうが見えない。


「みんな! 抵抗はするな! お前らは何もやってないんだからな!」

「お前も黙れっ!」

「ぶはっ!」

「アラタっ!」


 日本民国じゃあり得ねぇよな?

 国軍兵士が俺を殴りかかってきやがった!

 だが、それでも言わなきゃならないことがある。


「みんな! 一切抵抗するな! 抵抗しない限り極悪人扱いは絶対にされることはない! たとえでっち上げられてもな! 周りの人間を傷つけたら、確実にぐはっ!」

「黙れと言ってるだろうが!」

「アラタあ!」


 気を失うほどじゃねぇが、痛くて苦しくて立ち上がれない。

 ヨウミが心配して駆け寄ってくれたが、体力回復に一役買うこともない。


「おいっ! 早く檻持って来い!」

「どれにどいつを入れるか分かってるよな?!」


 あちこちから怒声が上がる。

 その中で耳に入った言葉。

 仲間達も何やら叫んでいるがよく聞こえない。

 だが騒ぎになる前だったから、俺の叫び声は聞こえたと思う。

 どうやらこの大臣、既にこのシナリオを考えてたってことか?

 意外なことに、俺を力づくで押さえつけるような行為はない。

 むしろ、壁を作って周囲の様子を見せないようにしている。

 そしてこの騒ぎは、大勢の足音と共に遠ざかっていく。

 大臣の気配もいつの間にか消えていて、残るは俺とヨウミ。そして俺達を取り囲んでいる二十名以上の兵だけになった。


「よし、戻るぞ。お前達も大人しくしていることだ」


 兵の中の一人がそう言うと、その兵たちもフィールドに背を向けて去っていった。


「……一体……何……なの……?」


 その答え、俺が分かるわけがないだろう。

 心を落ち着かせ、頭を働かそうとしても、訪れたフィールドの静寂がその邪魔をし続けている。

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