王宮異変 その1

「行列、今までと比べて短くなってねぇ?」

「集団戦の受け付け、しばらく休むって話だったからな。きっちり一か月後に再開するっつってたぜ?」

「だったらライム達とかは何でいねぇんだ?」

「訓練自体は休止じゃねぇからな。順番待ちの連中をみんな相手にした後で受け付けは再開っつー話だ」

「んじゃこの行列、ダンジョンとフィールドのアイテム探し目的がほとんどってことか。あ、俺の番だ。アラタ、俺はタラコと梅の二個とお茶のセットで」


 行列の人数が減れば、待ってる連中の雑談も減っている。

 ま、静かな方が、仕事に集中しやすいからいいんだけどな。

 けれど、雑談が減ったからと言って、どうでもいい話題しかないというわけでもない。

 それどころか。


「にしても最近、集団戦の受け付け休止になったり王子が拘束されたり、世の中……つか、俺の目耳に入るニュースはとんでもないもんばかりだな」

「え? どゆこと?」


 俺よりも早くヨウミが反応。

 俺は……食いついていいんだろうか?

 シアンがここに来ることがある、ってことを知ってる冒険者はいるが、顔見知りってことを公言していいものかどうか。

 つか、拘束?

 何の話だ?

 何が何やら分からんぞ?


「ヨウミちゃん、ニュースとか見てねぇの? 国王殺しの未遂犯とか何とか。王族の闇ってとこか?」

「けど、国王だって訳わかんねぇことしてんじゃねえか。旗手を何度も召喚してるとか何とか」

「周辺国に従属するように勧告してたりって話もあるが、その前に泉現象何とかしろってんだよな」


 ……俺が推測していたことが起きたってことか?

 シアンが自分の父親を幽閉した。

 これだけなら親子喧嘩で済む話。

 だがその目的は、冒険者の一人が言った通り、外交政策が世界平和を乱しているから、それを抑えるため。

 しかし見ようによってはクーデターだ。

 それを良しとするか悪しとするか。

 シアンが拘束されたということは、それを悪しと見なしたということだ。

 問題は……国民がその政策をどう受け止めているか、国王への評価とシアンへの評価はどうなのか。

 そして、拘束した者は誰なのか。

 大臣が昨晩ここに来た、というタイミングも良すぎる。

 シアンの行動を監視していたとすれば……俺も、また手配書書かれちまうか?

 つか……あいつ、大丈夫なのか?

 まったく状況が分からん。

 何より、今日どころか動きが取れない。


「えっと、はい、梅とタラコのおにぎりにお茶のセットで四百円です。……で、首都の様子はどうなんでしょうね?」

「落ち着いたもんだと思うぞ? 王宮のお膝元とは言え、王族と国民の間には境界線っぽいのがあるしな」

「境界線?」

「王族のプライベートなんか、誰も分からんってこと。ま、プライベートの件なら王族に限らず、隣近所だってそうだろ?」

「ってことは、首都のミルダには出入りの制限は」

「ないない。いたって普段通りだな。エイシアンム王子は、特定の所に入り浸ってることもなかったみたいだし」

「出入り自由。もっとも王宮へはかなり厳しい制限を設けてるようだが……元々誰でも自由に出入りできるとこじゃねぇしよ」


 後ろの冒険者らも雑談に混ざってきた。

 テレビ……じゃなくて、受映機の番組から得る情報より確実性は高いかもな。


「でも……誰がシ……王子を拘束したのかしら? 拘束されたのは王子だけ?」

「大臣の誰かが指示出したとかしか聞かねぇな。軍部が動いたみたいだったから……」

「軍なの?! 保安部とか警備部とかじゃなくて?!」


 キナ臭ぇことに巻き込まれてねぇか?

 確かあいつ、軍部統括大臣とか言ってたよな。


「けど、今の王子って実の父をどこぞに閉じ込めてるって話だよな? 世話はしてるっつーから……国王殺し未遂ってのはどうかとも思うんだが」

「王妃は外国との交渉の連続で、帰国する暇もなさそうなんだと。王妃も抑えようとしてるらしいが……」


 なんかおかしいぞ?

 この話、俺は今初めて聞いたが、そこまで噂が流れてるもんなのか?


「あー、ちょっといいか? 王子が拘束されたのはいつなんだ?」

「一昨日か? 三日前か?」

「三日前じゃなかったか? 昨日じゃねえのは確かだ」


 三日もあれば、大っぴらになってる情報は広まるか。

 だが……。


「王子の様子はどうなんでしょうね」

「無事なんじゃねぇの? 何かあったらすぐ報道されるだろうし、俺らの仕事も左右されることだから、何かあったらすぐ話は聞こえてくるさ。けど容態とか、そこら辺までは分かんねぇな」


 シアンをすぐにどうこうするってこたぁねぇだろう。

 もっともその噂を仕入れてから今の時点までの時間差はあるはず。

 その間に何か変化があったかも分からんが。

 それよりもだ。

 その間に俺はシアンと連絡を取ろうとしていた。

 その事実を把握されたら、俺にもなんかの追手は来るだろう。

 俺が拘束されたら……。

 シアンに救いの手を差し伸べられる奴はいない。

 俺だけの問題なら何とかできるはずだが、問題の発祥は王族の内部、しかもシアンが張本人。

 とりあえず今は、目の前の仕事をこなす以外に何もできない。

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