集団戦の人気がおにぎりを上回る もはやそれどころじゃない?

「この国の……軍事統括……大臣?」

「その通り」


 時間外、しかもこれから晩飯ってタイミングでの来客。

 自己紹介でとんでもない肩書を言い放った痩身の、まぁ初老と言い切ってもいいか。

 その男は、俺はもちろん初めて見る。

 ヨウミを見ると、俺を見てゆっくりと横に顔を振る。

 ヨウミもどうやら見たことはないらしい。

 仲間を見ても……分かるわきゃねぇか。

 だが、こいつの言うことは本当だ。


「……で、そちらの方々は……」

「分りやすく言えば、役人だ。そんなことよりも、だ。魔物の泉、魔物の雪崩現象については知っているな?」


 強引に自分が切り出したい話題に巻き込もうとしてるのは分かる。

 だがこいつらがここに来た狙いが分からん。


「……それはもちろん知って……ますが」

「何を言い淀んでいる? 貴様、まさか何か秘密でも」


 役人の一人がいきりだした。

 そうじゃねぇよ。


「大臣相手に、知ってる、みたいな言い方はまずいか? と一瞬考えただけだ」

「本当だろうな? その場しのぎの嘘じゃあるまいな?!」


 うわ……めんどい。

 なんなんだよこいつら。


「ふむ、まぁいい。今は言葉遣いを気にしてる場合ではない。お前達も控えよ」

「はっ」


 やれやれだ。

 面倒くさい客が来てしまったもんだ。


「……集団戦の割り込みはする気はないし、訓練場はここから変更することもない。出張もな……」

「我らが日本大王国国軍の、軍事力増強に協力する立場になるのだぞ? 光栄に思うべきであり、謹んでこの依頼は受けるべきなのだ。それを無下にするのは、浅慮というよりほかにない」


 請け負って当たり前。

 その事によって起きる不都合は、国からの依頼ということであれば何の問題もないとでも?

 この国が抱えてる問題には目を配らせる気はないと?


「それに、国力を高める行為に非協力的ということは、何か企んでいるのか、ともな」


 なんでそう、穿ったことを考えるのやら。

 言わせておけば、本と言いたい放題だな。


「……お言葉を返すようですが、冒険者達への」

「冒険者達には訓練の相手ができて、軍には何の力にもなる気はないということだな?」

「あ、あの、シア」

「い゛―――きしっ! ズズッ! あ゛―……ヨウミぃ、ティッシュ取ってー」

「うおっ! 手で押さえもせずにくしゃみとはっ!」

「じょ、常識を弁えんかっ! 貴様っ!」


 ヨウミがいきなりとんでもないことを言い出すもんだから、ついこんなんしか思いつかんかった!


「え、えっと、はい」

「バカヤロウ。こいつら、俺らとシアンの関係突き止めてねぇだろ。こっちからバラしていい話じゃねぇ。あいつが依頼しに来た時は、忍んで来たんだからな。余計な事言わんとけ」

「え? あ、うん。ごめん」

「みんなにもこそっと伝えとけ」

「うん」


 小声で諫めた。

 一応了解したようだから、変なことを口走ることはないと思うが。

 それに、一時とは言え、国王らによって手配書を書かれてる。

 それを知ってたら当然それを持ち出してもいいはずが、大臣ともあろう者ですらノータッチとは……。

 なんか内輪でも内緒にしてたりしてたのかね?


「くッ……。まぁよい。また改めて来るから、その時まで話をまとめておくがよい」


 ……何だったんだ? 今の。


「……何だったの? あの人達」


 俺が知るか!


 ※※※※※ ※※※※※


「ってなことがあったのよ」

「あたしらが下手に口を挟んで、アラタの立場が悪くなったりしたら困るから黙ってたけど……」

「いや、それで正解だ、コーティ」


 普段はきついことを言うくせに、逆境になると立場を弁えるってのはありがたい。

 普段からそんな心遣いができていれば、間違いなく仲間の中で一番人気が出ると思うんだがなあ。


「まぁ、その話聞いててもよー分からんが……シアンにゃ連絡してみたんか?」

「これからするつもりでいたんだが……。その前にみんなの意志はどうかと思ってな」

「誰が相手でもいいけど、ここ以外に場所は考えられないなぁ」

「テンちゃんに同意」

「ミッ」


 サミーは両腕を同時に上下に動かしている。

 マッキーに同意ってことだな。


「ここ以外に訓練場所があったとしても、私達に土地勘がなければ何の役にも立ちませんよね?」

「どのみちい、ここからあ、動く気はないかなあ。遊びに出かけるとかは別だけどお」

「ミンナハウゴキヤスイケド、オレハメダツダロウシナア」

「ンーゴ、大きいもんね。敵意がなくてもそれを証明することは難しいもんね」

「ライムモ、カラダオオキクナルコトモアルカラ……」


 ということは、だ。


「国内が平穏時に、みんな一斉にどこかに移動して、住民を驚かせたり警戒させるような……波風立てるような真似はしない、ということでいいな?」

「条件つけるなら、非常事態が起きて、それ収める協力をするためならやむなし、ってとこでいいんじゃない?」


 ヨウミの後付けの条件をプラスした後も、みんなが同意する。

 これで意思統一は図れたわけだ。


「んじゃそれを方針として、改めてシアンに連絡するが、いいよな?」

「そーいえばシアン達、来ないよね。昨日だっけ? 一昨日だっけ? その辺りに来るペースだったのにね」


 晩飯を一緒に食う食わないって件には特に触れない。

 突発な仕事ももあるだろうしよ。

 ここに来たくても来れないこともあるだろうよ。

 けど通話なら……。


「あ……でもひょっとして、もう寝てるかも」

「あー……私達も晩ご飯済ませちゃいましたもんね」

「食べる前にい、連絡すればよかったかもお」

「別に明日でもいいじゃん。早朝でもさ。……で、アラタ、どうだった?」


 どうだった? も何も……。


「通話口に出ない。呼び出し音、鳴り続けてるだけ」

「出ないの?」

「忙しいのかな? それともテンちゃんの言う通り、もう寝てるのかも」


 夜の九時過ぎ。

 早起きする奴ならもう寝ててもおかしくはない。


「……方針決めたことだし、明日でもいっか」


 ※※※※※ ※※※※※


 しかし翌朝に連絡を取ろうとしても繋がらず、店の開店直後、冒険者の客同士の会話からとんでもないことが起きていたことを知った。

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