トラブル連打 その4

 流石に本物には劣る。

 ライムは、スライムという特性を生かして天馬に姿を変え、俺とヨウミを乗せて飛んでいる。

 飛行スピードはテンちゃんより遅いのは仕方がない。

 それでも地上での移動手段よりは、時間は取られずに済む。

 他にもライムの特性に助けられてることがある。

 俺達の足がライムの体にめり込んでいる。

 ライムから落ちずに済むってことだ。

 だが、気温が低い。

 載る前に防寒具を着てて助かってるが。


「ねぇっ! アラタっ!」

「……あ? 呼んだか?」


 空気が流れる音も防ぐことはできなかった。

 ヨウミの怒鳴り声もろくに耳に入ってこない。


「モー……に……!」

「あぁ?!」


 何を言ってるか聞こえない。

 こんな状況で会話を求めるな!

 ちなみに俺が前に跨り、その後ろからヨウミが、俺の腰に手を回してしがみついている。


「……ん? 通話機のバイブ機能?」


 ヨウミからのメッセージだった。

 こんな時に通話機能使ってまで会話が必要か?


「何だよ、まったく……あ? 『モーナー、マッキー、クリマーと通話が繋がらない』だと? 『呼び出し音鳴りっぱなし。メッセージも送ってみただけど』……って……」


 何かのアトラクションに夢中だったら通話できないだろ。

 しょうがねぇな。

 とは言え、胸騒ぎがしてくる。


「メッセージ送っても、その通知はすぐ止まる。メッセージが来たことに気付かないこともあるよな……。『五分ごとにメッセージ送ってみな』っと。……さて、あいつらの気配は……」


 未だに感じ取れない。

 あの船までテンちゃんは一時間かからなかった。

 ライムは……一時間超えるか?

 空中を飛んでいる魔物がそこかしこにいる。

 テンちゃんよりも高度は低いし、速度も遅い。

 魔物が接近しやすいってことだが、襲ってきたとしても、多分問題ない。

 こっちの実態はスライムだからな。

 ライムと接触しようものなら、即座に捕らえて溶かすなりなんなりしてくれる。

 魔法とか仕掛けられても、体を変化させてカバーしてくれる。

 これもまぁ。安全と言えば安全な移動手段だ。

 おかげでテンちゃんの気配を探すことに集中できる。

 だが、感じ取れるのはそんな魔物の気配ばかり。

 テンちゃん達の気配はない。

 テンちゃん達は、俺の気配を察知する範囲外にいる、と言えるんだろうが……。

 最悪の事態が重なってしまった。


「こんな時に……何で魔物の泉現象の気配をキャッチしちまうんだよ! 別の場所で起きりゃいいじゃねぇか! とりあえずヨウミに……っと」


 とにかく、一刻も早くテンちゃん達と合流しないと。

 そしてその後で……む? ヨウミからか?


「なになに? ……『泉現象ってマジ?!』って、うん。マジなんだよ。で……『モーナー達に何度か連絡したけど返事が来ない』って……遊びに夢中……まぁ……こっちはこんな事態になってるなんて思ってもみないだろうが……あ? 何で……」


 ラーマス村の中心地に近づいてきている。

 その村の向こう側にある船の気配は感じ始め、強くなりつつある。

 大雑把だが、客の気配も感じ始めた。

 だが……モーナー達は……どこだ?

 もう少し距離が縮まったら分かるだろうが……。

 焦ってもどうにもならないが、飛行速度がもどかしい。

 いや、今取れる移動手段の中では一番早い方法で移動している。

 贅沢は言えないのは分かっちゃいるが……。


「ん? モーナー達……じゃないな。またヨウミからか。『泉現象の場所は?』って、うん、大体分かってきた。『多分船の向こう。船とその向こうの村? の中間くらい。多分二日後』っと」


 今すぐって訳じゃないが……現象が起きてから避難しても間に合わないんじゃないか?

 だからといって……何も手を打たないってのは人としてどうなんだ?

 警報くらいは出すべきだろうが、魔物の襲撃から免れるか?

 テンちゃんらのほかに、モーナー達とも連絡が取れず?

 おまけに魔物の泉現象まで。

 何なんだこの運の悪さは!

 ……後ろから抱きついてるヨウミの腕にさらに力が入って、ちと苦しいんだが?

 ん?

 背中に当たってるの……ヨウミの頭か。

 ……今現時点では、ライムに乗っていること以外何もできない。

 たとえ気配を察知することができても。

 ヨウミの心苦しい思いは、気配を感じ取ろうとしなくても十分分かってるよ。

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