トラブル連打 その3

 俺もライムもヨウミも昼飯を食い終わった午後一時半。

 テンちゃんとサミーはまだ来ない。

 帰りが遅くなって、連絡もせずに腹が立つどころじゃない。


「いくらなんでも遅すぎるよ。探しに……」

「どこを?」

「どこって……」

「イドウハ、タブンソラ。ムラノソトヲサガスナラ、ライムタチガキケン」


 ライムの言う通りだ。

 冷静さ、と言うか、顔がないから冷静に見えるだけなんだが、それだけでも心強く思えることはある。


「客足が途切れた。ミアーノとンーゴと合流するか」

「え? お店は」


 決まってんだろう!


「今日は店仕舞いだ!」

「う、うん。ライム、手伝って」

「アイ」


 ったく!

 何だこの状況はっ!


 ※※※※※ ※※※※※


「アラタのあんちゃんよぉ、そんなに腹立てんなよ。泣こうが喚こうが、現状変わんねぇんだろう?」

「わーってるよ!」

「ちょっと、アラタ。どうしたの?」


 どうしたのって、何がだよ!


「オチツケ、アラタ」

「ジカン、オソクナッテルダケダヨ?」


 もう時間の問題じゃねぇ!


「雰囲気悪くなるから、少しは落ち着きなさい!」

「うるせぇ!」


 何だろう?

 この感情が止まらない。

 誰にも止められないと思う。

 一体何だこの感情はっ。


「テンチャンタチ、シンパイスルノ、ワカルケド、オチツイテ」

「心配じゃねぇ!」


 自分で怒鳴って驚いた。

 心配してる……心境じゃない。

 言葉にできない違和感が、なぜか急に沸き上がってる。

 それを感情の力づくで抑えようとしてる。

 多分、そうだ。


「何よ、その言い方。心配してたんじゃないの?!」

「……そうだ。心配じゃない」

「何よ、それ! まだ仲間じゃないとか言ってんじゃないでしょうねっ!」


 心配……が必要な奴らか?

 違うだろ。

 連絡がつかない。

 時間通りに来ない。

 モーナー達も恐らく知らない。

 ……そうだ。

 テンちゃんとライムに必要なのは、心配じゃない。


「モーナーんとこに通話機で連絡」

「止めろ」

「何よ! テンちゃん達心配じゃないの?!」

「モーナー達は何も知らない。休暇を楽しんでる。あいつらに動いてほしい時は今じゃない」


 そうだ。

 心配するやつが増えたところで何になる?


「カクニンハ、ヒツヨウ、トオモウ。モーナータチガ、シンパイッテレンラクヲ」


 ……確かにンーゴの言うことは間違いじゃない。


「そうだな。かけてみるか」


 今度はヨウミがお怒りモードだ。

 通話することでいくらか収まったようだが。


「あ、モーナーか? そっちはどうだ?」

『アラタあ? うん、楽しいぞお。でもお、何かあったかあ?』

「いや、楽しそうなら問題ないんだ。ほら、遊んでたら怪我した、なんてことになったら、帰ってきた時になんて声かけていいか分からんからな」

『……何? いいじゃない。あ、アラター? こっち、楽しいよー』

「マッキーか、そりゃ何より。何か変わったことないかって思って、ついでに遠距離の相手に通話機使ってみたくなってな」

『ぷっ。アラタってば子供みたいじゃん。あ……ちょっと楽しい思いに水差されちゃったことあったな』


 なっ!

 まさか……テンちゃんが怪我して戻ってきたか?!


「な、……どんなこと?」


 平静を装ってた感情が一気に崩れかけたが、何とか持ち直せた。

 落ち着け。

 落ち着け、俺!


『うん、すれ違いになっただろうから安心してたんだけど、ほら、サミーが会うのを嫌がってた双子いたじゃない?』


 随分前の話……かな?

 そう言えば、いつの間にか双子を見なくなったか?


『場内アナウンスがあって、あの双子、見なくなったって。だからサミー、あの双子と会わずに済んだかな? って』


 まだ会わせたくない相手だが……。

 だからといって、そんな奴ら憎しとまではいかない。

 ましてや同じ村に住む子供だ。


「見つかったのか?」

『まだみたい。他にもどっか行った子供のアナウンスあるんだけど、その双子のアナウンスだけはずっと続いてるのよ。他の子供のアナウンスはしなくなったけど、それって見つかったってことよね?』

「……クリマーはいるのか?」

『クリマー? いるよ? 代わる?』

「いや、お前らが楽しんでればそれでいいよ。双子は心配だがな。あぁ、うん。楽しんで来いよ。じゃあな」


 ……思わず普通に会話してしまった。

 それもそうだ。

 テンちゃんとサミーの情報は全くなかったんだから。


「誰かいなくなったの?」

「あ? あぁ。サミーがまだ怖がってる双子の子供な、アナウンスがあるっつーからおそらく家族一緒に遊びに行ってんだろ。双子がいなくなったらしい」

「んあ? モーナー達が行ってるその場所でか?」

「あぁ。早い時間からずっといないんだと。それよりもテンちゃん達だ」

「ココデ、サワイデモ、ミツカラナイ。ソノバショニ、イッテミタラドウカ?」


 もうすでにその場から去った奴を、その場に行って探す意味があるのか?


「アラタのあんちゃんよお、気配、感じ取れるんだら、ここにずっといるよりゃいいんじゃねぇの?」

「忘れてた! そうよ! ここからテンちゃん達の場所分かんないんなら、その範囲の外にいるってことよね? だったら現地に行ったら、どこにいるか分かるんじゃないの?!」


 その発想は浮かばなかった。

 善は急げだ!


「俺が留守番してやっから安心しな。ンーゴは流石に無理だがな」

「オレ、ココニイル」

「あぁ、頼む。ライム、ヨウミと俺を乗せて短時間で移動できないか?」

「マカセテ!」


 テンちゃんと同じくらいではなかったが、天馬の姿に変化した。

 俺とヨウミを乗せて移動するってことらしいな。


「飛べるの? 落ちない?」

「シンパイナイ。ヨウミハマダノセラレル」

「……どういうことよ……」


 怖いから。

 怒鳴ってるときより怖いから、変に静かな笑みはやめてくれ。

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