ここも日本大王国(仮) その3

 あの四人組以外の初級冒険者は、あの五人組が初めて見る顔だ。

 モーナーが地下を掘ってできたダンジョンに潜入。

 一日が終わる頃にはダンジョン探索も終えて宿に引き返す。

 今日は二日目。

 俺は相変わらず、ドーセンの宿で米の選別作業をしている。

 。

「そう言えば、俺、この村の人はドーセンとモーナーしか知らないな。他の人はもちろんいるんだろ?」


 いなきゃおかしい。

 ブランド米を作ってるくらいだからな。

 それに果物、野菜、畜産もやってるくらいだし。


「村の産業は向こう、つまり村の南側。冒険者とかの相手はこっち。北側だな。南と北で仲が悪いってことじゃねぇ。ど真ん中を道が通ってるから、それを境にしてってことだな」


 民家も、その家の農地のど真ん中にあるって感じだから、向こう三軒両隣みたいな何軒も続いてる建て方じゃない。

 民家同士の距離が相当離れている。

 まぁ村民同士で不和があるようなことがなきゃ別に気にはしないが。


「宿屋ってのは、外部の人間しか使わねぇ。まぁ例外はいるがな」


 モーナーのことだな。


「ま、あいつは別として、つまり、村の連中が利用することはねぇ。だから村にとってはあってもなくても構わねぇわけだ」


 極端なことを言えば、だよな。

 けど、それで生計が立てられるとなると……。


「ところがこの村は、昔から食うことに関しては……なんつーか、研究熱心っつーのか? たまたまここに来たよその人間が、たまたまどこぞの民家で飯をご馳走になってからが好転した」


 外部の人達からそんな好評をもらうとは思わなかったんだな。


「だから食料生産できる人材と人数さえあれば、この村は潤い続けられるってことさな」


 ふーん。

 世代交代できて、味や栄養面の改良ができて、大量生産できれば問題ないわけか。


「ところがとんでもない奴が現れた」


 ほう?


「ここで生産される食い物よりも美味いもんをこさえるっつーんだから心中複雑だ。なんせこの村の中で採れる食材で、しかもそれらを口にした村人はいないってんだから。村の外から持ち込まれた物ならともかくもな。まさかそいつの力を借りるなて夢にも思わなかった」

「俺のことか」

「そゆこと。さて……昼飯はできたが……あいつらは確か弁当持ってったんだよな。となると今日の昼飯はアラタとあの娘……えーと」

「ヨウミか? 俺と交代で昼飯に……いや、もう四人追加かもな」


 気配を感じる。

 間違いなく、数日前この村を後にした例の四人だ。


「四人? 昼飯食いに来るのか?」

「あ、いや、昼飯とは限らないな。晩飯には来るかも分からんが……」


 怪訝な顔をしているが、とりあえず俺の分の昼飯だ。

 ちなみに米の選別作業の結果だが、意外と好評だった。

 とは言っても、すぐに違いが分かったのはモーナー。

 普段口にしている物と何となく違うような気がする、と喋っていた、五人の冒険者のうち魔術担当の二人。

 その反応を見たドーセンは、普段の賄い食と同じ食材ということからまんざらでもない反応。

 俺も会得したい、ということで、この作業はドーセンの前で進めていったわけだが、気配を察知する力の使い方の応用だから、真似したくてもできないと思われる。

 ドーセンもそれを分かり始めたようで、半分諦めかけている。


「飯屋の方で使う米預けるから、判別してくんねえか? もちろん料金払うからよ」

「いや、それは流石に手間がかかる。こっちの仕事に差し障りが出そうだしな」

「全部とは言わん。出来高払いで何とか」


 店への力の入れ方が違ってる。

 まず身だしなみを整えることが先だと思うぞ?


「その話よりも、昼飯まだかな?」


 頼む。

 俺への依頼はともかくも、自分の仕事はしっかりやってくれ。

 誰にもできない事をできる人がいたら、それをしてもらいたいと思ったら逃がしたくない気持ちは分かるがな。

 しかしそんな俺にも欠点はある。

 それはな。

 自分が仕分けた物の違いをな、決してすべて自分が分かるわけではないんだな、これが。

 例えば果物の水分の多さの違いで分けて、食べ比べたらそれは流石に分かる。

 しかし、魔力の多さなどで分けた米を食べ比べても、俺にはほとんど分からない。

 でもそれらを見て違いが感じ取れて、分かる人には分かるんだからしょうがない。

 不快な思いをさせて申し訳なかったと思うよ?

 その分、何か手伝いできたらいいとも思ってるよ?

 そして力になれそうなことがあるけれども。

 さすがに客に出す米粒全ての仕分けはなぁ……。

 できる限りのことはするつもりだけども、こっちも仕事があるからな……。


「あいよ、日替わり定食な」

「ありがと。あ、ヨウミもこれにするっつってた。食い終わって戻ったらすぐにここに来る予定……」


 俺が喋ってる途中で、すっかり聞き慣れた扉の、ギギッというきしむ音が聞こえてきた。


「こんにちはぁ。また来ました」

「アラタさん、いますかー?」

「昼前にいるわけ……いた……」

「ドーセンさんも、またお世話になりまーす」

「……ほんとに来やがった……。アラタ、お前、予知能力者か何かか?」


 いや、昼に来るかどうか分からない、とは言ったぞ?

 それにしても……。

 あれからどれくらい月日が経ったか分からんが、まだまともに仕事貰えてないのな、こいつら……。

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