第2話 光のエレメント

 怪物はその巨人の出現に狼狽えたようだった。

 ヒカリも同じく、その大きな背中に呆気にとられていた。

 銀色の体色に、金のラインがアクセントとして入っている。さらに胸部と背中には金色のプロテクターのようなものが点いていて、銀のラインが入っていた。また頭部は金色で、騎士の防具のような形をしているが、短く、一本の角があしらわれていた。

 巨人は怪物の方へと跳躍した。

 右腕が金色に光り、その勢いを殺さずに怪物の顔面を殴りつけた。

 巨人が着地すると土煙が舞い上がり、大地が震えた。

 怪物は後方に飛ばされるも、空中で片足を巨人に掴まれた。

 そして巨人は怪物を振り回し、上空へと投げた。巨人はそれを追って飛び上がる。

 だが怪物はその手から光球を連射し、巨人は全弾受けてしまう。

そのまま巨人は墜落してしまった。

 その影響で再度土煙が舞い上がり、大地が揺れた。

 上空からは何発も光球が巨人めがけて放たれる。着弾するたびに爆発し、土煙が舞い上がり、巨人の姿は見えなくなってしまった。

 やっと光球の雨は止み、土煙だけが空中を漂っている。怪物は上空に留まった。

 しばらくの静寂。

 それを破ったのは煙の中からの金色の光球だった。それは三発放たれた。

 全弾被弾した怪物はバランスを失い、焼けた街に土煙を揚げて墜落した。

 煙をかき分けて巨人が現れる。 

 巨人は自身の胸の前に、掌が向かい合うように手をかざした。

 両掌の間には、金色の光球が作り出された。それは次第に膨張していき、巨人の肩幅ほどの大きさとなった。そして巨人は押し出すように、一歩踏み込んで怪物へと放った。

 怪物は立ち上がったばかりだったが、すぐさま光球を連射した。だが相殺には至らず被弾する。怪物はその衝撃で後方へと飛ばされた。

 巨人は、右手を手刀の形にし、そこから金色の剣を出現させた。そしてその光の剣を一振りして、光の刃を放った。

 怪物は素早く立ち上がるも、刃によってその細い左腕を切断された。

 うめき声をあげる怪物。

 巨人は剣をしまい、追撃にかかった。前方に跳躍し、今度は右手で鉄槌を喰らわせる。次いで左手で上げ打ち。右フック、左正拳突き。

 そして巨人は一歩踏み込んで、大きく振りかぶる。その拳は金色に輝き、まっすぐに怪物の顔面へと突きこまれた。

 怪物の、中世の騎士のようなそれは砕け散った。世にも醜い顔が露見する。

 巨人は構わず追撃しようとした。

 だが怪物は自分の外殻が破壊されたときの、その一瞬の隙を逃さなかった。

 怪物は巨人の首をその長い三本指で掴み、締め上げた。さらに電撃で巨人を苦しめる

 そしてなんと、切断されたはずの左腕が再生した。

 怪物はその左手に高エネルギーを充填した。

 巨人は両手で怪物の手を引きはがそうとするも、電撃のせいで身体が思うように動かない。

 怪物はついに、その高エネルギーを放出した。

 それは巨人の腹部を貫いた。巨人の背面から光の粒が弾け飛ぶ。

 巨人はだらりと両腕を垂れ、怪物に投げ飛ばされた。

 

 巨人は投げ飛ばされ、ヒカリたちが避難する公民館の前に落ちた。銀色の身体も、輝かしい金のプロテクターも、今は輝きを失い、灰色の石造のようだ。

 その振動で屋上にいたヒカリは転倒してしまう。

 金色の光の中から現れた、金色の巨人。ヒカリにとって、この巨人は希望だった。しかし、その希望は今にも潰えそうだ。

 ヒカリは顔を歪ませて巨人に叫んだ。

「ねぇあんた! 救世主だか何だか知らないけど、私たちを救いに来たんでしょ!だったらちゃんと救ってよ! 今のあたし達には、あんただけが最後の希望なんだよ!」

 巨人に反応はなかった。

 ヒカリが失意に飲み込まれたそのとき、後ろから声が聞こえた。

「そうだ! この子の言うと通りだ! 俺らにとっちゃあ、お前が最後の希望なんだ!」

 ヒカリは振り返る。そこには公民館に逃げてきた人たちが、続々と屋上へ上がってきていた。

「俺たちは応援してる! だから諦めちゃいかん!」

「頑張れ!」

「俺らがいるぞ!」

 皆、言うことは違えども、それはあの巨人を応援する声だった。

 ヒカリは目を丸くしてその光景を見ていた。だがすぐに巨人の方へ向き直って叫んだ。

「聞いたか!」

「――あんたは一人じゃない!」

 その瞬間、ヒカリの身体が輝き始めた。それは彼女だけに留まらず、屋上にいる全員の身体が輝き始めた。

 ヒカリは胸の前に両手をかざした。すると身体の光は両掌に収束し、光球となった。

 そしてそれは、勝手に巨人の身体に入っていった。人々も、ヒカリに続いて光球を作り上げた。数多の光球が巨人へと降り注ぐ。

 そして巨人は、再びその身に光を宿し、立ち上がった。

 

 巨人の姿は明らかに変化していた。

 銀色の身体には黒のラインが入り、その銀色も、暗い銀色になっていた。さらに、金色のプロテクターのようなものは、完全な鎧のようなものになっていた。また頭部の角も伸びていた。

 その雄々しさはまさに、「戦士」だった。

 怪物は憤ったかのように雄叫びを上げ、巨人に襲い掛かる。だが人々の光を貰った今の巨人に、もうその怪物は敵ではなかった。

 巨人は片手を突き出し、光球を作った。巨人はそれを怪物ではなく上空に打ち上げた。

 打ちあがったそれは空中で弾け、光の矢となって、怪物の素体が唯一むき出しの、頭部に降り注いだ。

 死角からの攻撃。

 怪物は狼狽える。

 巨人はその隙に、腕を胸の前でバツ字に交差させた。

 腕に光のエネルギーが流れていく。

 そして腕を振ってバツ字を切り、一歩踏み込んで両手を前に突き出した。

 巨人の両腕から光のエネルギーが放たれる。

 それを受けた怪物の身体は、徐々に光の粒子へと変わっていった。

 そして砂のように消えていった。

 怪物を倒した巨人は、片膝をつき、光の粒子となって消えてしまった。

 

 朝日シンは、「守神の祠」で倒れていた。

 その手には、金色に輝く正八面体の結晶が握られていた――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

守神の戦士 oo @Gotoucats1007

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ