第15話
幸光は刀を抜いた。
「お前、それ……。そうか、お前の手に渡ったか。それなら姉さんも本望かもしれないな」
「この刀を知ってるんですか?」
「あぁ。オレにとっちゃ、姉さんの形見であり、仇でもある」
紅蓮は刀を抜かない。刀は紅蓮にとって枷でしかない。
紅蓮の所有する刀は《封刀・無力》。その刀は妖刀と言われる恐ろしい刀だ。所有者の力を吸い、それを無尽蔵にストックする。そして、その刀を手放した時にストックしていた力を所有者に返還する。
「だから、オレは本気でやらせてもらう」
紅蓮は刀を投げ捨てた。
紅蓮を中心に膨大な闘気が溢れ出ている。それは具現想に近く、闘気は形を成した。
最古に存在したと言われる怪物『鬼』がそこにはいた。
「さぁ、行くぞ幸光! その命、守って見せろ!!」
紅蓮は万象力を使い、足元に爆発を起こしその風圧で一気に距離を詰めた。そして、その威力を殺さないまま殴りかかった。
「何の、これしき!」
幸光は刀の腹を使い、その拳をいなして紅蓮の体勢を崩そうとした。あの速度の攻撃をいなされれば普通は体勢を崩すが、相手は紅蓮だ。
紅蓮は体を空中でひねり、左足で回し蹴りを繰り出した。
「甘いんだよ」
紅蓮の回し蹴りは幸光の左の肋骨を直撃した。
「がはッ!」
幸光はまるで糸の切れた人形のように吹っ飛んでいった。
雪花はクッションを作ろうと雪で壁を作ったが、幸光は何とか空中で体勢を立て直し着地した。
「おー、なかなかいい動きだ。しかし、防いでばかりでは何も始まらないぞ」
「そうですね……確かに攻めなければいけないですね」
幸光も紅蓮の万象力を真似て、足元に爆発を起こし距離を詰めた。
そしてそのまま、紅蓮の左肩から袈裟斬りを仕掛けた。しかし、紅蓮が防御姿勢に入ったため幸光は空中で無理やり体を回転させ、逆袈裟斬りに切り替えた。
「ッ!?」
予想していなかった方向からの一撃に対応しきれずに紅蓮は幸光から一撃を受けた。
「……人を斬ったことがないためなんとも言えませんが、人はこんなに硬いものなんですか?」
「空中であんな動きをする奴は初めて見たぞ」
雪花は心の中で「ついさっき貴女もやったことですけど」なんて思っているかもしれないが、口には出さなかった。何より、幸光の実力を知るいい機会だと考えていた。
まさか、これほどの力があるとは。経験を積めばもっとよく育ちそうだ。
今は手合わせという形で戦っているが、もし今が実戦であれば幸光は死んでいる。理由は相手が紅蓮だからだ。
「お前の実力は認めよう。だが、まだまだ危機察知能力が低いな」
紅蓮の右肩には傷ひとつ付いていない。紅蓮のその力は万象力や具現想などと言った力でまとめれるようなものではない。刀による斬撃で傷がつかないのは、紅蓮の完璧に練り上げられた闘気が鎧の役割を果たしたからだ。
幸光は刀が紅蓮に当たり、効果がないと分かった瞬間に回避行動を取るべきだった。
「たしかに……これは避けれなーー」
「気づいたのならすぐに回避行動を取れバカが」
紅蓮の強烈な殴りが幸光の顔面に直撃し、幸光は燕でも驚くほどの速さで吹っ飛んでいった。
「さて、今日はこれくらいだ。雪花、伸びてる2人を頼んだ。燕は大丈夫だろうが、あのバカはけっこう骨が折れてるだろうな」
「少しは手を抜いてあげてくださいよ」
「ハハハッ、すまないが、こういう性分なもんで。それじゃバカによろしく言っといてくれ」
紅蓮はそのまま森に消えていった。
◇◇◇◇
「ふぅー。まさか、オレが一撃もらっちまうとはな」
紅蓮は大木に寄りかかるように座り、幸光から攻撃を受けた肩をさすっていた。
あの時の紅蓮の闘気は完璧だった。その闘気の上から幸光は強烈な一撃を放った。そしてその結果、紅蓮は肩を脱臼した。
致命傷にはならない。しかし、あの完璧は闘気を突破し紅蓮に傷を負わせたことに事実に変わりはない。
「楽しみだな。あのバカがもっと強くなればオレも楽しめる。それに……」
紅蓮は空を見上げ、未だ誰にも見せたことのない優しい顔で呟いた。
「椿姉さんが1番嬉しいだろうな」
闇に住み、光を求める者たち 無文書 @bunnsyo
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