最終話

ある日、庭師とかつて白雪姫を逃がした従者が白雪姫と青年の前に味方を引き連れて現れました。

「屋敷を乗っ取りその家の娘を殺した咎でお前には来てもらわなければならぬ」

彼らの傍らで白雪姫と暮らし続けた小人もおりました。


しかし、青年は眠り続ける白雪姫を見下ろし優しく語りかけておりました。

「彼女を離せ。お前のような悪魔が触れていい人ではない」

かつての従者が気味悪そうに吐き捨てました。

そして力任せに青年から白雪姫を取り上げました。

弱々しく抱えられていた白雪姫は勢い余って従者たちの腕から取り落とされました。

その時、白雪姫の赤い唇から小さな欠片が転げ落ちました。






目の前で鉄の靴が炎に包まれておりました。

かつてこの屋鋪で主人として君臨していた青年は両手に枷を嵌められて立ち尽くしていました。

かつての従者達が彼の両脇を抱えて引きずりました。

青年と燃え盛る靴を囲む人垣の遥か後ろから、とても愛しい声がしました。

「お願い、やめさせてください」

半狂乱となった白雪姫が必死に叫んでいました。

「彼を助けてください。お願いです。どうかやめさせてください」

悲鳴のようなその声は人並みにかき消されていきました。

「どうか、どうかお願いです」

今にも枯れそうな声をかき消すように青年は大きく声をあげました。


「私はこの屋敷の主人を篭絡しその座を奪った。それだけにとどまらずこの屋敷の姫までもその美しさを妬み殺そうとした悪魔だ。

その鉄の靴、履かせられるなら履かせてみるが良い」


青年は自分の中にこれだけの雄々しい声をあげる力が残っていたことを喜びました。

白雪姫が遠くで泣き叫びました。

僅かにそのほうへと目を配ると、白雪姫の歪んだ顔がほんの一瞬だけ見えました。

その瞬間を見逃すまいと、青年は引きずられながら初めて白雪姫に唇付けをした時のように微笑みました。

白雪姫はその場に崩れ落ちました。


「それでは刑を始める」

従者が高らかに、告げました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

白雪姫と継母になり損ねた青年 どろんじょ @mikimiki5

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ