第五話

屋敷の主人である青年は窓枠から身を乗り出したまま息をしなくなった白雪姫を、そっと抱き寄せました。

ぐったりと青年にもたれかかった白雪姫を抱えあげて、窓から運び出しました。

そしてその場で座り込み、もう一度抱えなおしました。

白雪姫の頬は雪のような白さの中に薔薇の蕾のような赤みがさしていました。

青年はその場で白雪姫の黒檀のような髪の中に顔を埋めました。


青年は白雪姫を愛しいと思っておりました。

あどけなく微笑まれるたびに胸が痛みました。

しかし、白雪姫の父をそそのかし白雪姫を惨めに追いやった自分には離れていく白雪姫を成す術もなく眺めているほかありませんでした。


美しく成長し、周囲から愛されるかの白雪姫が自分の下から立ち去ることを恐れました。

新しく活け変えられることなく、枯れてゆく薔薇を見るたびにもう戻らない白雪姫を想い涙しました。

愛することが出来ない白雪姫を、手元に置くためにはこうすることしかできませんでした。

青年に微笑むことの無い日が来るくらいなら、白雪姫にはずっと眠っていて欲しかったのです。


眠り続ける白雪姫を抱えたまま、青年は屋敷に戻ることはありませんでした。

野生の薔薇が咲き誇る湖のほとりで青年は来る日も来る日も白雪姫の髪を撫で、優しく語りかけ続けました。

白雪姫の唇は血のように美しい赤さを誇っていました。

しかし青年は口づけさえすることなくひたすら彼女を守る棺となり替わり、大切に抱きかかえておりました。

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