第二話 あの時はごめんね

 家についた。質素な二階建ての一軒家。

 私は合鍵で扉を開け、踏み込んで入る。

「おかえりー、お姉ちゃん!」

 すぐに声が聞こえた。弟の声だ。

「ただいまー、とも

 すぐにこう返すのが、私の日課である。

 靴を脱ぎ、廊下ろうかに上がる。しばらく歩くと、テレビの音声が流れていることに気づいた。

「おかえり、穂香ほのかちゃん。今日から夏休みだね」

「ママただいまー。そうだね、部活が大変になりそうだよ……」

 テレビをみていたのはやはり私の母だった。トークバラエティ番組をみていたらしい。横には畳んだ洗濯物が置いてある。

 だがそれもかまわず自分の部屋に直行した。

 ――暗い。

 壁のスイッチで電気をつけた。

「……。……」

 目についたのは桃色の薄い毛布がかかったベッド。夏休みが始まろうとしているからか、今すぐに飛び込みたい衝動しょうどうられた。

 それもそのはず、夏休みはこれで始めようと思ったからである。

 しかしそう思うのもつかの間、

「……着替えよ」

 そうすることにした。


 ダボダボの白Tシャツにひざまでたけのある黄色い短パン。私のだらしない部屋着。

 抜けがらとなった制服は母のもとに渡しておいたし、準備完了。

 早速、ベッドのもとへダ〜イブ!

 ――ボスッ。

「はぁ〜……」

 心地いい、力が抜ける〜。体が溶けてしまいそう……

 ベッドにうつせになったまま五分、充分に堪能した私はあることを思い出した。

 デスクにあるスマホを手に取って椅子いすに座る。「あること」とは、もちろん帰り道のことだ。

 早めに送っといた方がいいかな。そう思った私は、友奈に教えてもらった方法でメモ書きをMINEまいんで送ってみる。

 ――できた!

 なんだろうこの達成感。スマホを持っていない手をグッと握る。

 でももう一つ、送る言葉があったのを私は覚えている。早速その言葉を作り始めた。

 できた言葉は「あの時はごめんね」。

 今朝、友奈が髪について私にこう聞いてきた。

『ねぇねぇ!昨日新しいトリートメント使ったの!どうどう?』

 ちょうどいい長さの栗色の髪が彼女のチャームポイントだと知っていた。が、私はそれに興味を持っていなかったのでそっけない顔をしていたら少し揉め事になってしまった、というわけである。

 そのことに対する謝罪がこの言葉。

 作った言葉を友奈に送る。既読きどくは未だにつかない。

 ――友奈ちゃん、大丈夫かな。

 私は友奈からの返信を待ちに、自分の部屋を出て、母が見ているテレビを見始めた。


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清葉学園中学校・文芸部 金環油菜 @yuna-konowa

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