密家者は完全なる非招待制

ちびまるフォイ

外に出ると帰る場所がなくなってしまう

「ただいまーー……って誰もいないか。はは」


電気をつけると部屋に男が立っていた。


「うおおお!? 誰!? 誰だよお前!?」

「しーっ! 静かに!」


「強盗か!? 俺に金なんてないぞ!!」


「ちがうちがうっ。とにかく落ち着いて。

 私はお前から金を取るつもりなんてない!」


「じゃあなんだよ!? なんで俺の家にいるんだ!」

「私は密家者にたまたま選ばれただけなんだ」


男は静かに話しはじめた。


「……つまり、こういうことだな。

 お前は依頼されて俺の家にあがりこんだと」


「ああ。合鍵もほら渡されている。

 空き巣ならいつまでも居座る理由がないだろう?」


「話はわかった。とにかく帰ってくれ」


「バカ! 家から出たらお互いに賞金が出なくなるんだよ!」


「は?」


「密家者としてお前の帰る場所にあがりこまないと、

 俺は自分の帰る家を失ってしまう。

 でも、あんたの帰る場所にあがりこんで3日過ごすことができたら

 あんたも俺も賞金がもらえて自由になれるんだ」


「……なんだよそれ」

「悪い話じゃないだろう? 3日の辛抱じゃないか」


「その話には証拠があるのか?」


「……ない。私だって突然メールを――あっ」


男はしまったという顔で慌てて口を塞いだ。

誰に語るわけでもなく必死に謝り始めた。


「ちがうんです! 今のは! ノーカウント! ノーカウント!」


「な、なんだよ?」


「ゲームの存在を説明をすることは許されていても

 証拠の提示や第三者へのゲームの証拠を明かすことは失格。

 つまり私は帰る家を失ってしまうんだ」


「せっかく写真を投稿しようと思ったのに……」

「やめろおおお!!」


密家者の男は家主のネット回線を引っこ抜いて外部との連絡を断った。


「3日! それだけ我慢すればすべて終わるんだ! ハッピーエンド!

 なのにどうして我慢出来ないんだ!?」


「わ、わかったよ」


これ以上密家者を追い込んでしまえば包丁を手にとってでも

脅すかもしれないと身の危険を感じた家主は従うことにした。


他人同士の不気味な共同生活がはじまる。


「……トイレの蓋が開いてたぞ」

「そっちのが次使うとき早いだろ」


「水道の水がさっき少したれてたんだけど」

「それくらい締めてくれればいいだろう」


「ここ俺の家なんだからもうちょっとさ……」

「なにーー? テレビの音で聞こえないーー」


「あああ! もう限界だ!! お前、何様だとっ――!!」


ピンポーン。


共同生活3日目。

お互いにギスギスし合う頂点に達したとき、

家のインターホンが鳴った。


「あ、私の宅配かも。着払いだからよろしく」

「お前っ……!!」


ドアを開けると運送業者ではなく彼女が立っていた。


「来ちゃった。さっきから声がするけど、誰かいるの?」


「え゛」


彼女は薄く空いたドアの隙間から部屋の様子を見ようとしている。


「ダレモイナイヨ……」


「本当に? さっき話してなかった?」

「キョウハチョット……」


「おーーい。荷物はーー?」


見かねた密家者がタイミング悪く玄関に来てしまい、

彼女と運命的なお見合いをしてしまった。

彼女の表情は一瞬青ざめる。


「……友達?」


「そ、そうだよ……今日泊まりに来てるんだ」


第三者にゲームのことは話せないと脳裏によぎる。


「こんな友達いたっけ?」

「つい最近、ね……」


「それで最近ずっと連絡取ってくれなかったの?」


「いやそれはあいつが外部との連絡を邪魔して……」


「……え。あ、そ、そう……」


何かを察したように彼女が後ずさっていく。


「どういう人が好きとかは私別に気にしてないから……。

 でも、私をあなたの自分発見のための実験で付き合うみたいにするのは

 なんかちょっと違うと思う。きょ、今日は帰るね……」


「あ、ちょっと!」


彼女はバツが悪そうに帰ってしまった。

怒りの矛先は無神経な密家者へと向けられる。


「どうしてくれるんだ! やっとできた彼女だぞ!?

 完全に俺は同性好きだと誤解してるじゃないか!」


「誤解なんて解けばいいだろう!?

 こっちは帰る場所を失うかどうかの瀬戸際なんだ!」


「簡単に言うな! もとはと言えばお前のせいだろう!」


「今日だけ我慢すれば全部終わるんだ!

 金ももらえるんだぞ。多少の誤解くらい安い代償だろう!?」


この言葉に男の中で我慢していた何かがはじけた。


「……もういい」


「お、おい。なに操作してるんだよ。おい!?」


「もしもし? 警察ですか? ええ、家に不審者が居まして。

 はい。すぐに追い出してください。気持ち悪いんで」


「なにしてるんだ! ゲームをバラさなくても

 俺が家から追い出された段階で賞金はもうお互い手に入らないんだぞ!?」


「賞金賞金ってバカじゃねえのか!

 金をもらって自分の生活関係を壊されるくらいならいらない!」


まもなく警察が来ると密家者は羽交い締めにして連れ出された。


「後悔してももう遅いからな! あんなに賞金がもらえたのにーー!!」


「さっさと消えろ!」


男が消えた部屋は広く感じた。

寂しさも少しはあったが自由を取り戻した感動が大きかった。


「ああ、これで何もかも元通りだ。家も取り戻せたし。

 金をもらっても知らないやつと共同生活なんて無理だな!」


ネット回線をつなげ直すと待ちわびていたようにメールが1痛届いた。



 ・

 ・

 ・



牢獄では看守たちが話をしていた。


「ようおつかれ」

「おつかれーー」


「なあ、今日捕まったのって不法侵入者の1人だよな?

 なんで牢獄に2人も入ってるんだ?」


看守は首をかしげて答えた。


「それがわからないんだよ。自主的に入りやがった。

 どこからか持っていた監獄の合鍵使ってね。

 追い出そうとものすごい剣幕で怒鳴ってくるんだよ」


「なんて言ってくるんだ?」




「"ここに3日間置いてくれ!

  こいつの帰る場所に俺がいないと、家を失う!"ってさ……」

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