吸血鬼と双子姉妹のエピローグ

 朝、やけに早く目が覚めて壁に手をつきながら1階に降りると聞き覚えのある声がリビングから聞こえてくる。


「よっ!我が息子よ!ちょっと見直しちまったよ。まさか一晩で2人諸共手篭めにしちまうとはな!」


「うるさっ」


 ほんとうるせー。というか何で居るんだ?今日はあの胡散臭いコートは着ていない。


 リビングには僕とクソオヤジを含めた6人が居る。どうやら、僕が最後だったらしい。


「んで、起き抜けに悪いが、この子達はオレがしばらく預かる。なあに悪いようにはしないぜ?」


 そう言って、楠姉妹に肩を回そうとするが同時にペシッと叩かれる。


「つれね〜」とヘラヘラしている。


「いや、いやいやいやアンタ何をどうするつもり......というかアンタは一体何者なんだよ?!この前からアンタは何もかも全部知ってるようなことばっか言いやがって!」


 いつもこのマイペースに持っていかれるが、今回はそうはいかない。


 僕の問いかけに反応したのはアメリの方だった。


「は?自分の父親のこと何も知らないの?マジ?」


 アメリとメアリは信じられないといった具合に顔を見合わせている。


「不誠実。信じられない」


 メアリはクソオヤジの顔を見やるが、変わらずヘラヘラした表情を見ると、ため息をつく。


「はっはっは。世の中には知らなくていいこともあるのだよ未来ある若者たちっ!」


 やたら芝居掛かっている。かなりウザめ。


 そのあと何度も問い詰めるがひらり、ひらりと躱されて楠姉妹を連れて行ってしまった。



 ※※※



「中々、その、ユニークなお父様だね......」


 目が泳いでますよ、エルフさん。クソオヤジを褒めようとするが適切な言葉が見つからずユニークというところに落ち着いたのだろう。いいね、ユニーク。便利そう。


「お兄ちゃん、朝、ごはん、食べて?」


 目の前に置かれた朝食。


 毎日、当然のように食べていたがここ最近のことを思うと特別なことだと自覚する。


 母親が教えてくれたという料理。味がわからないのに、僕の味覚に合わせた完璧な味付け。


 エルフさん家で料理?を作ってる間疑問だったので聞いてみた。味がわからないのにどうやって料理してるのか、と。


 レシピを覚えて、作っていく中で僕の表情から好みを模索していたらしい。


 僕めっちゃ愛されてるじゃん。とエルフさん家で一人ジーン、と感慨に耽っていたことを思い出す。


「美味しいよ、魅夜。すっげー美味しい」


「嬉しい、です」


 一口噛み締めて涙が溢れる。昨日も散々泣いたのに、僕はなんて女々しいんだろう。


 生きている。僕も魅夜も。


「エルフさん、ありがとうございます。この恩をどうやって返したらいいのか......」


 今回のMVPは間違いなくエルフさんだ。エルフさんがいなかったら、僕も魅夜もこの世にいなかっただろう。


「私は誰のお願いでも聞くようなお人好しじゃないよ。君だから力になりたかったの。だからなんて言わないでほしいな」


 エルフさんの性格というか在り方みたいな部分に純粋に憧れる。


 しかもこれを素で言って絵になるからズルい。僕だったら笑いの的だよ、間違いない。


「ありがとうございます!でも、流石に––––––」


 何かお礼を、と言いかけるのと同時に少しだけ大きい声でエルフさんが僕の声を遮る。


「で、でもっ!!そんなに?言うなら付き合ってもらいたいなーなんて」


「つ、つき、あう?!です?!」


 僕より魅夜が先に反応する。


 妹よ、エルフさんくらいレベルの高い女性に異性として好きになってもらうには僕じゃ100くらいレベルが足りないよ。


「ち、違うよ?!そうじゃなくて......その、買い物的な?ショッピングデデデデデート?!みたいな?」


 エルフさんが一昔前のギャルっぽくなっちゃってる。ワタワタしていてとても可愛い。僕の心のアルバムにしっかり保存しておく。


「うー、うー、うー」


 魅夜は唸っている。威嚇?


「わかりました。それじゃ週末行きましょうか」


「う、うん!大丈夫!あの、詳しいことはメールするから!絶対見てね。絶対だよ!」


 そう言うとそそくさと帰って行ってしまった。週末までに治るといいなー。


 エルフさんを途中まで見送って家に戻ると魅夜がなんとも言えない表情を浮かべていた。


「お兄ちゃん、エルフさんの、こと、すき?」


 おっほい。ど直球だな。


 まあ、でも好き?好きかといわれると––––––


「好きだな、うん」


 人と成りを知るたびに尊敬の念が強くなっていく。


「ミヤ、は?」


「そんなもん好きに決まってるじゃんか」


 そう言って頭を撫でると気持ち良さそうに頭を擦り付けてくる。


「よか、った」


 しばらくすると満足したのか、少し離れる。


「大、好き。大好きっ!!」


 満面の笑み。この笑顔を見たかった。見れて良かった。


 これでようやく日常が戻ってくる。ホッと胸を撫で下ろしつつカレンダーを見ると、もう夏休みが間近に迫っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ハーレム野郎の息子は異種族美少女と純愛したい。 29294 @29294

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ