ぱん、
「ミハさまが、今日は
堕天使は 水ば にたって おちゃ のしたくに取り掛かり、いつものように やかん のふたで作った水膨れから金ぷんを吹き散らしては、金いろえのぐのつめこまれた二つの瞳をくるくると回した。
棚に並んだ水晶壺のひとつを
「ぱん、と叩く」
だてんしは て にとった檸檬膏の葉を りょうて にはさんでパンッ、とやった。
「ぱん、と叩くのです。檸檬膏の葉は」
もういちどパンッ、とやった。
「そうすると香りがたつ」
お茶会用の洞穴にだてんしがお茶車を押して入っていくと、ほしがたの水晶の ちゃ卓 には主人と ちゃいろいかみ の娘が もう すわっていた。
だいだい色の昼光虫が岩盤のいちめんにびっしりとはりついて光る洞穴のなかで、主人のぐるぐる巻きの ながいかみ は だいだい色 に変わっている。
「堕天使。檸檬膏の葉のお茶にしたのかい?」
「ミハさま。見ればわかる。わからない?」
「わかるよ。堕天使はそれが飲みたかったのだね。すまなかったよ」
しゅじんはやさしく微笑んで言った。
「うん」
くるりくるりと二つの瞳をまわしながら堕天使はうなずいた。
「ミハさま。きょうは〈井戸の幽霊〉がだまっている」
はっぱのうえから熱湯を注ぐと、爽やかなばかりに哀しい檸檬膏の葉のかおりが洞穴じゅうに拡がった。
ちゃいろい髪のむすめはなにをみてもくるりくるりと瞳を回すだけで、楽しさも怖ろしさもわすれたままゆらゆらとそこに座っている。
むすめの隠し場所を探していた主人はとうとうそれがみつからなくて、もう あきらめたらしい。
むすめは しゅじん と だてんし といっしょに しょくたく につくようになったけれども、なにをたべてものんでも くるりくるり と ひとみ をまわすだけ。
「しずかで、静か」
「そうか」
主人は頷いた。
「では、そろそろ頃合いかもしれないね」
「わからない。堕天使には、何のことだか」
「彼女が忙しくなったんだろう」
「彼女はだれ?」
瞳を回しながらの だてんし の問いに、主人は、僕にもわからないねというように くび をふった。
「彼女は、今は何者なんだろうね」
だてんしの茶碗のなかで檸檬色に輝いていたお茶は、うっとりと見つめるうちに砂にかわり、さらさらとだてんしの喉をすべりおちた先で重い鉛のかたまりになった。
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