余談 こどくな箱庭

何が悪いってわけじゃないの。

ただ人とちがうから。人じゃないから。

あの子はいじめたっていいの。


トイレから帰ってきたらランドセルの中身がぶちまけられていた。

誰がやったのかなんてわかりきっている。泣いたりしたらあいつらの思うままだ。

そう思って涙をグッとこらえる。

何が悪かったんだろう。

昼休みみんなが外にいったのにずっと本を読んでいたから?

まゆちゃんのメモ帳、いいなって言わなかったから?

人とはちょっと違ってたから?

動物は、アルビノが生まれると徹底的にいじめる。

その動物が死ぬまで。

そう本で読んだ。

死ぬまで?

いつまで続くんだろう。

学年が変わっても続いた。

中学校もほとんどメンバーは変わらない。

きっと中学校も変わらない。

もしかしたら高校も、変わらないかもしれない。

そう考えて恐ろしくなった。


散らばった荷物をかき集めランドセルに詰める。それを背負うと早足で教室を飛び出した。いつの間にか学校は夕焼けの色で真っ赤だ。まるで、生き物の体内に入るみたい。血の通った巨大な生き物が、息を潜めている。自ら体内に入ってくる子供達を溶かしてしまうのだ。

「あれ?」

中庭に白いワンピースを着た女の人が立っている。頭につけた真っ白なリボンがゆらゆら揺れて、まるで紋白蝶のようだと思った。

その人が振り返ると、微笑んでこちらに歩いてきた。

「まだ残ってたの?」

「はい、ええと、」

「ここの学校に通ってたの。不審者じゃないよ。」

怪しがっていると女の人は慌てて両手を振りながら言った。

「転校しちゃったんだけどね、久しぶりに帰ってきたら懐かしくなっちゃって。」

そう言って目を細める。

「ここの中庭、本当に綺麗でしょ?」

夕焼けに染まる中庭は池にきらきらと光が反射して確かに美しかった。

「ねえ、あの中庭の真ん中にある紅葉、あれの七不思議ってまだあるのかな?」

「昔首吊り自殺した人がいて、そこの枝の紅葉だけ色が濃くなるって話ですか?」

「そうそれ!じゃあさ、音楽室のアコーディオンは?」

「準備室においてある、突然鳴り出すって言う……。」

「まだあるんだね!」

女の人はさらににこやかに微笑んで言った。

「あのね、実はそれ、お願いがあるんだけどね。」

お願いを聞いてくれたらあなたのお願いも聞いてあげる。

ふわり、と白い蝶が揺れた。







いじめっ子が死んだ。

川で遊んでいるうちに溺れて死んでしまったらしい。それ以来私へのいじめはピタリと止んだ。







何が悪いってわけじゃないの。

ただ人とちがうから。人じゃないから。

人じゃないなら人じゃない方法で。




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春の不可思議日記 五月雨真桜 @Ma2raMen

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