最終話 では――また会おう

「――御機嫌よう、諸君。


 日本を統べるべく選ばれし無能なる者たちよ。そして、哀れで愛しい愚民どもよ。我こそが悪を統べる者、悪の中の悪、アーク・ダイオーンである。


 揃いも揃って、絶望と恐怖に身を震わせていたのであろう。

 たったそれだけしかできないその身を恥じ、悔い、ただ終焉の時が来るを待っていたのではなかろうか。


 その哀れで矮小な貴君らを我々《悪の掟ヴィラン・ルールズ》が、悪を冠する者が救ってやったのだ。

 どうだ、この屈辱の味は? さぞ苦く、また、甘美な味であろう――」




 何を勘違いしたのか、拍手が始まった。

 その不快さに顔を顰めながら、あたしは続ける。




「だが、勘違いをするな。


 いずれこの国は、我々悪の掟が手中に収める。そのためにはあの不愉快な石ころごときに汚して欲しくなかっただけだ。ただその程度の話なのだ」




 この科白で、再び会場がざわめきに包まれた。




「我々は正義ではない。

 これからも我ら《悪の掟》は、悪の中の悪である。


 そして、偽りの正義を裁き、真の正義に対して真っ向から立ち向かう者であり続けるとここに宣言する。いずれ来るその時まで、せいぜい首を洗って待っているが良い。


 では――また会おう」




 合図もなしに絶妙のタイミングでタライさんがハッキングを止め、後にはどよめくばかりの会場が映し出されていた。あたしは軽く手を振り、その映像も閉じてしまう。大仕事を終えたあたしはくたびれ果てたように玉座に腰を降ろした。このおどろおどろしい椅子にもすっかり慣れたものだ。逆に居心地が良く感じるくらいである。


「……良かったのですか?」

「良いに決まっているであろう、ルュカよ」


 あたしはにやりと企みに満ちた笑みを浮かべた。


「我々は《悪の掟》……高潔なる悪。偽りの正義や非道なる悪を正し、我らの前に悪は無しとこの世界に知らしめる。それこそが我らの揺るぎなき志だ」


 その一言で、大広間に集まった構成員たちが一斉に跪き頭を垂れた。




 あ、とその時フキンシンにもあたしは思ったのだ。




 金一封はもらっておくべきだったかなー、と。

 来週の夏祭り用の可愛い浴衣、新調したかったし。




 なーんてね。



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JCでもできる!はじめての悪の首領【VR版】 虚仮橋陣屋(こけばしじんや) @deadoc

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