第2話

「ここからしばらく、平坦な道が続きます」

 星屑が並走しながら声をかけると、綺羅星は「のんびり行きましょう」と愛馬の手綱を引き、その歩みを緩めました。

 綺羅星が無事に使者として隣町のお屋敷様との謁見を終え、想定よりも早くこの町に帰って来られたのは、的確に道を選び導いている星屑の功績です。

 馬遣いの家業を継ぐ者として育てられた星屑は、この町の道も地形もよく把握していました。

「本当は、こうして外を歩くのがとても不安だったの。無事にここまで来られたのも、星屑のお陰ね。感謝します」

「いいえ。僕はただ、道の案内をしているだけ――綺羅星の馬術が優れているからこそ、道中を難なく歩んで来られたのです。僕は、ご公務についてはまるで分かりませんが、馬については誰よりも理解できます」

 星屑は馬遣いの家の跡取りとして生まれ、幼い頃から様々な人物が馬を操る術を見ていました。綺羅星の馬の扱いはその誰よりも達者で美しく、これを習得するためには、たいへんな努力が必要だったことでしょう。馬との信頼も厚く、星屑のような身分の低い者にも驕ることなく接する綺羅星に、星屑はすっかり心服の気持ちを寄せていました。

 そして綺羅星もまた、若いのによく鍛錬されたこの馬遣いに、心を惹かれていました。兄上様に綺羅星が不安を訴えたのは、出立の僅か数日前のこと。唐突に案内役を任命されたうえ、初めての公務に狼狽うろたえる世間知らずの未熟者を相手にさせられ、我を通すこともなくよく仕えてくれると感謝をしながら、綺羅星はあの夜の夢を星屑と重ねていました。

「あのあたたかな光は、きっと星屑だったのね」

 綺羅星が夢の話をすると、星屑は「それはきっと、星神様の巡り合わせでしょう」と照れたように笑いました。

「僕は、綺羅星と同じ星の日――同じ星のもとに生まれたのだと聞きました」

「あ……、星兄弟」

 星を神様と呼ぶこの町には、という言い伝えがありました。星神様が降りて来る特別な星の日に生まれた子は、互いに導き合い、惹かれ合い、共に生きてゆく運命にあると。

「僕のような身分の者が、綺羅星と星兄弟なんて――烏滸おこがましいのですけれど」

「そんなこと――身分なんて関係ないわ。……そう、そうだったの」

 綺羅星は、星屑と同じ星のもとに生まれたこと、そしてこれからも共に生きてゆけることを、とても嬉しく思いました。

「これからもよろしくね、星屑。……ずっと、私を導く星でいてください」

 そう言って星屑に向けた綺羅星の笑顔は眩しく輝いていて、星屑はしばらくのあいだ見蕩れてしまい、頬が熱くなり、すぐに言葉を返せませんでした。

「あ……、そろそろ町の者も行き交う街道にでます。お気を付けください」

「ええ、ありがとう」

 星屑の動揺を知ってか知らずか、にこにこと手綱を捌く綺羅星につられて、まだ大切なお役目の最中さなかだというのに、星屑もつい、喜びを隠せずに口元を緩ませてしまうのでした。

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