第28話 Last day(最終日)

気が付くと朝焼けが部屋に入ってくる時間になっていた。いつものように近くに家で飼われている鶏が鳴いていた。この鶏の鳴き声を山田も聞いて、目覚めているのだろうか。今朝も非常に天気が良くさわやかな目覚めとなった。


部屋の窓を開け、朝の空気を体全体で受け止めた。爽やかな朝の微風が部屋へすぅっと入ってきた。テレビをつけベトナム語のBGMを流す。お風呂の湯船にいつものようにお湯をはる。エビアンの水を一本飲み干した。水分を欲していた寝起きの体には、水が浸透していくように思える。僕はバスタブにお湯がはるまで、ベランダからハノイの朝を感じ取っていた。


お湯をはった湯船に寝汗をかいた体を沈めていく。顔までお湯に沈めて、口からブクブクと空気を吐き出す。なんだか子供に戻った感じがした。今日はいよいよ帰国日となる。なんだかそう思うと気合が入り、気を引き締めて無事に帰国できるようにと思う。湯船にしっかり浸かり寝汗を流し、気分爽快になった僕は、朝食のビュッフェへと向かうことにした。


エレベーターを待っていると同じ階に滞在していたヨーロッパ人の夫婦が、「GOOD MORNING MR」と話しかけてきた。


僕は「GOOD MORNING HOW ARE YOU?」といった会話をしながらエレベーターは上昇していった。8Fのレストランへ到着した。


僕「PLEASE。」と先へヨーロッパ人の夫婦を通した。


レストランは昨日より混んでいなかった。時間にもよるのだろうが、ハノイの街を一望できる窓際の好きな席へ座れた。僕は窓際の席を選んだ。これがハノイの景色の最後になるかもしれないと思った。ベトナムへはそんなに頻繁に来ることはないだろう。そう思うと、今、見えているハノイの景色がなんだか愛おしくなってきた。


最終日、今日の朝食のメニューは、ドリンクは、オレンジジュースとアクア。食後にベトナムコーヒーにした。


食事は、ベトナムフランスパン、スープはチキンスープ、卵はスクランブルエッグ、ヨーグルト、フレッシュフルーツにした。ビュッフェには必ずスイカとパイン・マンゴーがあるのだが、これらのフルーツは南国定番なのだろうか。フルーツ好きな僕としてはうれしい限りだけれども。今日はこの後、ノイバイ国際空港へ向かうだけなので、少しだけゆっくりと朝食を楽しんだ。


一通り食事を済ませ、僕は605号室の部屋へ戻った。僕は、帰りの最終荷造りを始めた。


荷造りも終わりホテルのメモ用紙で、ホテルのスタッフへメモを残した。「THANK YOU FOR EVERDAY」と記した。ベッドのサイドテーブルへ、メモを残した。


部屋の時計を見ると、時間も9:15になったので部屋を出ることにした。最後にベランダから、もう一度ハノイの景色をみた。見納めだ。窓のカギを閉め、バスルーム、セキュリティBOXの中、トイレ、ベッドも少し整えた。僕は部屋を出る前に、部屋のドアから、部屋に向かって「ありがとう」ってお礼をいい、605室の部屋のカードーキーを抜いた。


「ガチャ」と音がするのを確認し、エレベーターへと向かった。


山田も見送りに来るって言っていたしね。ガイドのファンさんとは、10:15にホテルのロビーで待ち合わせになっていた。キャリーケースと機内の持ち込みバックをもって僕はフロントへと向かう。


次にこの605号室を利用する人は、僕がこの部屋に滞在したことなど知りもしない。僕の前に滞在した人のことは、僕は何も知らない。この時間のずれが人の出会いを左右している。僕と山田もほんの時間のずれがあれば、このような感じでお互いの存在を知りえなかったんだろう。なんだかそう考えると感慨深い。


エレベーターに乗りフロントへ向かった。エレベーターの階数のライトが5F,4F、3F、2Fと下がっていった。1Fに到着しドアが開いた。


フロントのスタッフが「GOOD MORNING SIR」と挨拶した。


僕も「GOOD MORNING MR」と返した。


ホテルのチェックアウトの手続きをした。フロントのソファーに腰を掛け、今回のハノイ紀行で撮ったデジカメの画像を見直していた。ホテルのスタッフが一緒に写真撮りませんかと誘ってきた。ホテルのフロントスタッフと僕、ボーイ、そうしたところ、山田も到着し、山田がホテルへ入ってきた。


僕「山田君、丁度良かった。今、ホテルのスタッフさんたちを一緒に写真を撮るんだけど、山田君もはいろうよ。」


山田「いいですか。うれしいです。それじゃ、おじゃましま===す。」


ホテルのスタッフさんたちと大学の合宿のように肩を抱き合わせ、「はい、チーズ」って感じで集合写真を撮った。この写真もいつの日か見直した時に、懐かしさを感じるんだろう。


山田「改めておはようございます。酒井さん。いよいよ帰国ですね。というか、ほんの数日間でしたけど。俺にとっては、数か月、いやそれ以上に思えるぐらいの体験でしたよ。本当にいろいろとありがとうございました。それに酒井さんと一緒だったから、俺は安心もできましたよ。」


僕「こちらこそ、山田君、朝早く見送りにきてくれてありがとうございます。なんだか弟のようでうれしいですよ。昨晩は無事にホテルへ帰れました?」


山田「昨日は、すんなり帰れました。夜市へ立ち寄るまでは、客引きが多かったですけど、ホテルの帰りは大丈夫でした。」


僕「それはよかったです。いよいよ帰国と思うと、なんだか後ろ髪をひかれる思いですよ。ホント、今回のハノイ紀行は思い出深いものになりましたよ。山田君は、今日からどうするんですか。」


山田「俺も今日の夕方の便で、ハノイからダナンへ向かいます。酒井さんとは別の方向になりますが、ハノイを立ちます。」


僕「ダナンのホテルは、もう決めてあるんですか?」


山田「まだとっていないんですけど。ダナン空港に着いたら、ホテルの客引きがいると思うんでそこで探しますよ。それも旅ですからね。酒井さんの言われたように旅は道連れってことですよ。」


僕「気を付けてくださいね。そういう旅も学生時代のいい経験になりますからね。山田君、日本へ帰国したら、メールでもしてみて下さい。山田君の今日以降の旅行記を是非聞かせてほしいですから。」


山田「俺こそ、日本でも是非、酒井さんとお会いしたいですよ。いろいろとまだまだ勉強をさせていただければと思いますから。」


そんな和み惜しい会話をしていたら、間もなくするとガイドのファンさんがホテルへ迎えに迎え来てくれた。


ファンさん「酒井さん、山田さん、おはようございます。そろそろ空港へ向かいましょうか。酒井さん、ホテルのチェックアウトは終わっていますか。忘れものは大丈夫ですか。食事は済ませていらっしゃいますよね。」


僕「先ほどチェックアウト終わりました。パスポートも持っています。忘れ物はないですよ。すべてOkです。今から空港へ向かいましょう。残り少ない時間、よろしくお願いしますね。」


ファンさん「了解です。山田さんもよければ、酒井さんを見送りに空港まで行きませんか。帰りもちゃんと山田さんのホテルまで送りますよ。安心してください。」

山田「そうなんですか。ファンさん、ありがとうございます。俺も、ノイバイ国際空港まで酒井さんを見送りに行きます。是非とも。」


ファンさん「それでは、山田さんもこの車に乗ってください。」


僕「山田君、悪いね、空港まで来てくれるなんて。」


山田「いいえ、俺が見送りに行きたいだけなんですよ。」


僕「ありがとう。じゃ、そろそろ行きましょうか。」


ガイドのファンさんは、僕と山田が乗った昨日とは違うワゴン車を出発するように、ドライバーへ出発の指示をだした。


ハンポ通りを左にまがり直進していく、そうするとバンパック通りへと入ってく。それをさらに直進すると、チャンニャットズアット通りに入る。その通りはメイン道路になっており、交通量もかなりある。


間もなく進むとチュオンズオン橋へ到着し、その橋を渡りあとは空港へ一直線となる。ファンバンドン通りを一直線で、ノイバイ国際空港までの道のりとなる。


道なりの景色は、繁華街から空港近くの街中を通り、国際空港へと進んでいく。街の両側には、ベトナムの古今混在の建物が立ち並ぶ、その街並みを過ぎると間もなく田園風景が現れ、国際空港まで続くといった感じだ。僕と山田は無言のまま車中で過ごした。ファンさんが空港までの観光スポットを説明していた。僕と山田はファンさんの話に耳を傾けながら、車内の時間を過ごした。


山田「俺も今日の夕方、ノイバイ国際空港へまた来ちゃいますよ。」


僕「そうでしたよね。ホテルから空港までの足はどうするんですか。」


山田「空港までの送迎のガイドさんの車で、送ってもらいますよ。」


僕「それはよかった。山田君のフライトは何時ですか。」


山田「ハノイ発、16:00です。ダナン着が18:00ぐらいでしたよ。」


僕「そうなんですね。ホテルに帰って一段落して移動の準備ですね。バタバタしちゃいそうですね。今回は、ハノイは十分楽しめましたか。」


山田「酒井さんと一緒だったので、期待以上の満足をしました。本当にありがとうございます。ベトナムでは、一緒にいるのがこれで最後になると思うと、なんだか寂しいんですけど。」


僕「山田君、ダナンでの旅行も楽しそうですね。ダナンでは、ビーチでゆっくりと楽しめそうですね。」


山田「俺もちょっとそうしようと思っているんです。ダナンは観光っていうよりは、ビーチっていう感じですからね。途中、フエに立ち寄ります。フエは観光名称がたくさんありそうですね。楽しそうですね。帰国したら、体験談を聞かせて下さいね。楽しみにしています。」


僕と山田はお互いの出会いに感謝しながら、そんな会話を車中で楽しんでいた。僕はふと車窓に目を移すと、ハノイの繁華街がどんどん遠ざかっていくのが目に映った。なんだか寂しい感じになってきた。これが旅情というものなんだろうけれど。12時間後には日本に帰国している。明日の仕事の準備などをしているんだろうなって思った。山田は、そのころダナンへ到着し、ホテルがくつろいでいるんだろうなって思った。


僕「12時間後には、日本で僕は明日の準備をしていますよ。なんだか不思議な感じですね。今はベトナムのハノイにいるのに、12時間後は日本の東京にいるなんて不思議ですよ。」


山田「俺も12時間後はダナンにいて、おそらくホテルでくつろいでいるとお思いますよ。本当、不思議な感じですね。酒井さんは日本にいるんですもんね。俺はまだベトナムですけど。」


ファンさん「そろそろノイバイ国際空港に到着します。酒井さん、忘れ物がないようにしてください。いろいろとありがとうございました。」


僕たちが乗車した送迎車が、ノイバイ国際空港のゲートへ入っていく。出発ロビーへ向かうため、車はどんどん登坂へ向かう。車窓からの景色はなんだか儚い感じに見える。


出発ロビーへ到着した。ファンさんが送迎車のドアを開け、僕と山田を降りた。二人の体をベトナムの風が包み込んでくる。日本への帰国の旅立ちの日に相応しい、眩いくらいの青空だった。


ファンさん「酒井さん、ようやく出発ロビーへ到着しました。お荷物はこの二つでよろしいですか。」


僕「この二つで大丈夫です。ファンさん、いろいろとありがとうございました。すごく充実した旅になりました。山田君とのハノイでの突然の出会いも印象的な出会いでしたからね。山田君にもとても感謝していますよ。」


山田「酒井さん、お気をつけて日本へおかえりください。俺、東京に戻ったら、必ず酒井さんへ連絡を入れますから、俺のことを忘れないでくださいね。酒井さんの名刺を大切にしていますから。俺のベトナム旅行のお守りですよ。念のためにIPHONEに登録していますから大丈夫です。本当にハノイではいろいろと楽しませていただきありがとうございました。」


僕と山田は出発ロビーの入口のまで、最後に抱き合った。


山田「なんだか、恋人と別れる感じがして、マジ寂しいですよ。それとなんだかドキドキしちゃいました。」


僕は、山田のこのフレーズに触れなかった。


僕「山田君もこの後の旅、GOOD LUCKですよ。」


山田「酒井さんも GOOD LUCK!」


ファンさん「酒井さん、このゲートから先へは私たちは入れませんので、ここまでとなります。セキュリティゲートへ入ると、右側にANAのチェックインカウンターがありますので、チェックインの手続きをし、そこで荷物を預けてください。イーチケットを出しておいたのがいいですよ。セキュリティでもチェックされますから。」


僕「わかりました。ファンさんもお元気で!山田君、空港まで見送りありがとうございます。本当に感謝です。山田君と突然の出会いができて本当によかった。」


僕「ファンさん 山田君ありがとう。それじゃ!またね。山田君、東京で。」


僕はノイバイ国際空港の中へ、山田とファンさんは空港の外でお互い寂しくなる気持ちを抑えながら、別々の方向へ向かっていった。


僕は最後にセキュリティーゲートから振り返った。山田もファンさんも僕の姿が見えなくなるまで見送っているようだった。本当にうれしく感じた。


それはお互いの未来へ進んでいく感じに受け取れた。僕はセキュリティゲートを通り、ANAのチェックインカウンターへ向かった。


出発時刻掲示板を確認した。定刻通りで特にディパーチャーの時間変更はなかった。13:55のフライトで変更なし。手元の時計で時間を確認したら、11:30だった。チェックインカウンターでは、手続きがすんなりと終わった。僕はスーツケースを預けて、手荷物用のバッグをもって出国手続きへと向かった。


早めにウエイティングルームへ行き、旅情のリフレインをしようかと思った。


出発ロビーでは免税店などがあったが、品揃えは空港の免税店って感じだ。搭乗までは時間があるため軽くランチでもとっておこうと思いカフェへ入った。僕が座ったカフェの席は、空港内が見える窓際の席だった。


ボーイ「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ。ご注文はお決まりですか?」


僕「ウォターメロンジュースとサンドウィッチをお願いします。」と注文した。

注文も済ませたところで、搭乗予定のANAの機体が見える席へ着いた。ふと窓の景色に目をやった。爽やかなハノイの青空の景色だった。ハイビスカスとブーゲンビリアの花に水滴がついており、すがすがしさを感じた。


今回のハノイでの景色もこれでいったん終了だと思っていた。それと同時に、僕のIPHONEにメールが入ってきた。山田からであった。僕は、なんだか山田を見ているとやんちゃな弟って感じていた。ほんの3日間しか一緒にいなかったが、今回、初めて出会った感じがしなかった。


今まで何度となく海外へ出かけていた僕だが、今回のベトナム紀行ほど、今までにない思い出となったものはない。


ボーイ「ご注文のウォターメロンジュースとサンドウィッチです。ごゆっくり。今日は天気も良く、出発の飛行機も遅れないみたいですね。」


僕「そのようですね。ボーイさん、ありがとう。」


カフェの窓からは、僕がこれから搭乗するANAの飛行機の機体に燃料を入れる準備の車の様子が見えてくる。今先ほど、羽田からハノイへ到着したようだ。少々、遅れて到着のようだ。


到着した機内には、四日前の僕のように胸を躍らせている人々が、いまかいまかと入国の準備をしているに違いない。そんなことを思いながら、僕は、IPHONEで「フランプールの証」という曲を聴いた。


そういえば、日本を発つときも羽田国際空港のカフェでこの曲を聴いていたことを思い出した。今、僕は同じ曲をハノイで聞いている。


僕は、デジカメに収めてある今回の画像のチェックをした。羽田国際空港から始まった今回のハノイ紀行。いま、ハノイから羽田国際空港へ向かう。僕はカフェでの食事も終わり、僕はANAのウエィティングルームへ移動した。


間もなく、チェックインアナウンスが流れてきた。


僕は、チケットのQRコードをチェックゲートへかざし、機内へと入っていく。ゲートのカーペットの上を一歩一歩、歩き日本へ近づいていく。これで今回のハノイ紀行は終了となる。

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「HANOI(突然の出合い)」 有野利風 @Arino_Toshikaze

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