短編
七護七
帳は落ちて
冷えた缶コーヒーを片手に、気だるげに息を漏らした。
街を見渡せるほどの丘で、街灯に照らされ一人。
古びたベンチに腰掛け、何も考えずただぼーっと、月を眺めていた。
一体、いつからここに居たのだろうか。
何てことのない、いつもの休日。ふらりと出かけ、気が付けば秋の虫も鳴きだす頃だった。
ここは比較的栄えている街だというのに、丘を登れば人もおらず、風通しも良い。
今の私には、実に最適な場所だった。
私はゆっくりと立ち上がると、ズボンから煙草を取り出し、風に消されないよう持っていたライターで火をつけた。
立ち上る白い
口から湧くそれは月を隠すように浮かんだが、すぐに風でかき消されてしまった。
当たり前なことのはずなのに、何故かそれが私には無性に寂しく感じて、ふっと下に目線を逸らした。
手元には口の開いた缶コーヒー。どれくらい放置していたのだろう。
見つめるように孤独を訴えかけるそれを、口内の苦みを残したまま、一気に飲み干した。
いつものコーヒーといつもの煙草。場所が違うだけで、やっていることと言えば日頃と大差ないはずなのに。けれど、何故だろうか。
いつもと少しだけ違う苦みを感じた。
夜の空は苦みを広げようと水滴を零す。
風は冷たく、帰路を促すように雫と共に頬を掠めた。
短編 七護七 @nanago_757
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