第108話 美矢の手紙

毎日メッセージを送ってるし、たまに電話で話しているのに手紙を書くのはヘンな感じです。

でも、それだけじゃ足りない気分なので、こうして慣れない手紙を書いてみることにしました。

そっちは寒さが厳しいと思います。

サバっちは、コタツから出てこないんじゃないかな。

一昨日、送ってもらった雪景色の画像を見て、雪合戦がしたくてウズウズしちゃった。

いつか三人でしようね。

あと、昨日タマちゃんの部屋で、えーぶい(?)鑑賞会をやりました。

いろはちゃんのお兄さんが持ってた物みたいなんだけど、恥ずかしくて見てられませんでした。

いつか三人で、するのかなぁ?

寒いけど、風邪ひかないようにね。

                            二月一日 美矢



タマちゃんといろはちゃんと三人で、チョコレートを作りました。

大雪が降ったみたいで孝介君は来られなかったけど、三人でおいしく食べました。

朝からハイテンションだったタマちゃんが、チョコ食べながら泣いちゃって困ったけどね。

私が言ったことは、タマちゃんには内緒です。

いろはちゃんは作ったチョコを学校でクラスのみんなに配ってました。

最近は、みんなもいろはちゃんのことを受け入れてくれてるみたいで嬉しいです。

サバっちにもよろしく。

                            二月十五日 美矢



そっちはまだ寒いかなぁ。

こっちはもう桜が咲き出しました。

これから忙しくなるね。

田植えをする時には、ぜひ手伝いたいと思います。

昨日、タマちゃんのチョーカーの鈴が落ちて、タマちゃんが泣いてしまいました。

たぶん、孝介君には弱いところを見せまいとしてるだろうけど、私の前では最弱キャラになってます。

まあ、私も人のことは言えないんだけどね。

サバっちが羨ましい!

                            四月三日 美矢



ゴールデンウィークは楽しかったです。

軽トラに乗ってる孝介君がサイコーでした。

タマちゃんが、うちのお母さんをカッコいいと言うセンスで、「か、カッコいい……」と呟いてた(笑)。

私が植えた稲が、夏にはどれくらい成長しているのか楽しみです。

ここだけの話、タマちゃんはゴールデンウィーク中にキスしてもらえると期待していたみたいです。

あの時のことで未だに嫌味を言われるので、私としてもタマちゃんにキスしてほしかったなぁ。

それと二回目まだー?

                            五月十日 美矢



雨ばっかりですね。

農作物が心配です。

先日は、遠いところからお母さんのお見舞いに来てくれてありがとう。

もうすぐ退院できるので心配はいりません。

飲み過ぎが原因で胃がやられたっていうから私は呆れてるくらいなのに、タマちゃんの方が心配しちゃって。

孝介君もビックリしたでしょう?

私は言わないつもりだったのに、タマちゃんたら泣きながら電話したもんだから。

孝介君が遠くに行って、私のお母さんまで家からいなくなったらと思うと不安になったんだね。

タマちゃんは家族だなぁって、つくづく思いました。

                            六月二十九日 美矢



夏休みに入りました!

勉強もしなきゃだけど、高校最後の夏休みを思いっきり遊ぶのだ!

というわけで、八月の頭から十日間、よろしくお願いします。

同棲の予行演習みたいな?

あーでも、孝介君は何もしてこないんだろうなー。

一応、0.01持っていきます。

タマちゃんは0.03で充分だって言うけど。

                            七月二十七日 美矢



十日間も一緒に暮らすと、その後の喪失感がヤバいです……。

孝介君は、うるさいのがいなくなったとホッとしてるかも知れないけど。

タマちゃんもボーっとしてることが多いです。

なーんか喪失感だけじゃなくて、夢見る乙女の表情になってることがあるんだよねぇ……。

もしかして、私の知らないところでキスでもしちゃった?

まあ、キスまでなら詮索はしません。

キスまでなら!

サバっちにもまた会いたい~!

隣のおじいちゃんおばあちゃん、おじさんおばさんにもよろしくお伝えください。

                            八月十八日 美矢



スパイがいたことが発覚しました。

私達の情報を、孝介君に漏らしていたのです。

ということで、いろはちゃんには新たなエーブイを調達するよう命令が下されました。

まあ、私もタマちゃんも怒ってないんだけどね。

ただ、いつの間にか孝介君が、コッソリいろはちゃんの連絡先を聞いてたっていう事実に、心配かけちゃってるなぁと思わされて悔しいのですよ。

この悔しさを紛らすために、二回目まだー?

                            九月二十日 美矢



この一週間、どれほど不安で悔しかったことか!

タマちゃんの左手の薬指に光る指輪を、どれほど羨んだことか!

タマちゃんの「どやぁ」と見せつけてくる顔、授業中にウットリと指輪を見つめる顔!

そしてクラスの男子達の、悲嘆に暮れる顔!

孝介君、あなたは罪深い!

というわけで、いま私は、自分の指に光る指輪を眺めているのでしたー、えへへー。

でもこれ、高いよね。

リングは同じデザインで、私にはオパール、タマちゃんにはトルマリン。

どちらも十月の誕生石だけど、それぞれのイメージに合わせてくれたのかな。

二つも買ったら、宝石屋さんで変な顔されたんじゃないかなぁ?

とにもかくにも、ありがとう!

                            十月二十七日 美矢



タマちゃんの成績が伸び悩んでます。

私も春先に成績が落ちて悩んだけど、今は順調です。

期末の結果次第では、冬休みは家にこもって勉強かなぁ。

お母さんが言ってたけど、夜中に仕事から帰ってくるとき、よくタマちゃんの部屋の明かりがついているそうです。

授業中も眠そうな顔してるし、身体を壊さないか心配です。

もし、だけど、どちらかが大学に落ちたら、どうするんだろう?

落ちても浪人生として、一緒に暮らせるんだよね?

落ちたからダメなんて言わないよね?

でも、逃げ道を用意しておくのは良くないよね……。

                            十二月十一日 美矢



お正月は一緒に過ごせて楽しかったです。

でも、やっぱりタマちゃんがいないと、なんか違うよね。

私達は、三人で一つなんだなぁって、再確認しました。

電話でいいから、タマちゃんを励ましてあげてください。

                            一月九日 美矢



今日、卒業しました。

合格発表まで気が抜けませんが、孝介君に近付けてるようで嬉しいです。

タマちゃんといろはちゃんが抱き合って泣いてました。

あれ、泣かない私は冷たいのかな……。

免許を取るべく教習所に通い出しました。

田舎暮らしだと、運転出来ないと困るもんね。

三人で通ってるけど、タマちゃんの下手っぷりが……。

一緒に暮らし出したら、孝介君の軽トラも運転するよ。

                            二月二十八日 美矢



合格を伝えると、お母さんが泣いて喜びました。

その後、一人暮らしを謳歌できるなんて笑ってました。

でも、お酒を飲みだすと、しくしく泣き出したので一緒に泣いてしまいました。

残念ながら、いろはちゃんは浪人することが決まってしまったのですが、孝介君ちで長期滞在して勉強できるよ、なんて言うと、その気になって楽しみにしているようです。

いいよね?


この一年と三ヵ月、長かったです。

タマちゃんがいなかったら、私は挫けていたと思います。

そして孝介君、あなたは何度も電話をくれました。

時には、軽トラで駆け付けてきてくれました。

今だから言うけど、何度もタマちゃんと一緒に泣いたし、時にはケンカもしたし、一人で何かに怯えていたこともありました。

でもあなたは、そんな私達に寄り添うように、いつも気にかけ、常に感情を共有しようとしてくれました。

もうすぐ、そばに行けます。

ずっと、そばにいます。

                            三月八日 美矢

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