第92話 家族会議?
「いらっしゃい、孝介君」
「あ、ども、お邪魔します」
みゃーママが、俺を玄関で迎え、ニヤリと笑う。
「アンタ、うちの娘を差し置いてタマちゃん抱き締めたらしいね」
「!?」
巨乳が迫る。
「まず私を抱き締めたら家に入っていいわよ?」
「みゃーじゃなくてアンタかよっ!」
「美矢ぁ、孝介君が年増女は嫌だって言うのー」
「言ってねー!」
「ま、事情は判ってるから責めないけど、美矢だって父性愛に飢えてるんだからね」
ウインクされる。
どこが年増女だ。
ウインクがこんなにキュートな年増がいてたまるか。
「こーすけ君、おはよう」
「……おはようございます」
朗らかな笑顔と、照れ隠しの笑顔。
ほわーっとする。
俺の家族が、俺の娘達が、俺の彼女達が、俺を迎えてくれるのだ。
「みゃー、大家さんに聞いてみてくれたか?」
「うん。この部屋の真下が空いてるって」
よし、まずは第一段階クリアだ。
当然、未成年者が部屋を借りるには親権者の承認が必要になるから、取り敢えずは俺の名義で借りることになる。
タマの両親との話し合いで、親権者の承認も得たいところだが。
「その件なのですが」
そうだ、親以前に、タマ本人が反対する可能性がある。
いや、寧ろ反対するのが普通だろう。
タマにしてみたら、そこまで俺にしてもらうのは心苦しいはずだ。
「部屋が真下だと、私の喘ぎ声が上に聞こえますし、逆に上の部屋のギシギシが下に聞こえると思うのですが」
あれ?
何言ってんだコイツ?
「タマちゃん、する時は下の部屋で三人で、でしょ」
みゃーも何言ってんだ?
「えー、お母さんだけ除け者ぉ?」
何だこのオバサン?
「こーすけ君」
「あ、何だ?」
「タマちゃんの説得は、昨夜、私が寝かせないでしたから」
「そ、そうか。助かる」
さすがはみゃーだ。
それなら話は早い。
「まるで取り調べのようでした。眠気に襲われたところで同意を導き出そうとするし、喉が渇いても水も飲ませてもらえませんでした」
「みゃー!」
強引に同意させても意味は無いんだと叱ろうとするが、みゃーはニコッと笑みを返してくる。
「みゃーに、家族と言ってもらえたので」
……そりゃそうか。
みゃーだって、そんなことは判ってるはずだし、ちゃんとタマがどれだけ大切であるかを伝えてるに決まってる。
そして、それはちゃんと伝わったんだ。
「家族なんだからねを三百回くらい言われたところで根負けしました」
あれ? なんか違うけど、いいのか?
「みゃーには説得されましたが、孝介さんに対しては、はいそうですか、という訳にはいきません」
うーん、それもそうだよな。
ただ受け入れろと言われて納得するのは難しいだろうし、かといって、家族なんだから対価など求めていないし……。
「一生、あなたのメイドとして仕える、ということでいいでしょ──痛っ!」
「なーんでそうなる!」
「ですが、私には何も返せるものがありません」
「タマちゃん、教師になるんでしょ? 教師になったら童貞なんかより給料多いんだから、毎月少しずつ返していけばいいじゃない」
ぐっ、言い返せない!
「では、そういうことでよろしいですか?」
「ああ。というか、将来の返済もいらんのだが」
「そういう訳にはいきません」
「まあ、それでタマの気が済むなら」
「いえ、それだけでは気が済まないので、好き好き大好き孝介さんサービスも時々しようと思ってます」
棒読み気味だが、内容が非常に気になる。
だがここは、敢えて何も聞くまい。
「ま、任せる」
「ありがとうございます」
意外と簡単(?)に、タマの方は片付いた。
問題は両親の方だが──
「店のお客さんに弁護士さんがいるわ」
さすが、みゃーママ、頼もしい。
「アイツ、私の身体を狙ってるから、二つ返事で引き受けるわよ」
「そんな弁護士は断ってください」
みゃーママが、ニマッと笑う。
「冗談よ。ちょっと悪女っぽいセリフを言ってみたかっただけ。童貞クンの真っ直ぐなセリフもキュンと来たわぁ」
コイツ……。
「でも、謝礼は必要かもねぇ」
「それは出します」
「で、私には?」
「は?」
「あらあら、交渉するのは私なのに、なんにも無いの?」
「な、何が望みですか」
「孫」
ニッコニコだ。
「は?」
「最低二人は孫が欲しい!」
「そ、それは確約は出来ませんが」
笑顔が、消えた?
「約束しろ。もうアンタは家族を背負ってんだよ」
それは襟を正させる言葉だった。
家族ごっこをするのでは無いのだ。
「……判りました」
家族を背負う重圧さえ、喜びだと思える。
自分とみゃー、あるいはタマとの間に子供を作ることに、実感は無い。
ただ、そんな光景を思い描くと、それは幸せなことだと思える。
みゃーママも、それは同じなんだろうか。
「やっぱりみゃーのお母さん、カッコいい……」
あれ、何言ってんだコイツ。
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