第65話 性癖
サバっちの相手をしながら、みゃーが何やらプリントを見ている。
タマちゃんが見ていた進路調査票かと思ったが、数枚分あるので違うみたいだ。
「何だそれは」
「文化祭のスケジュール表」
ああ、そんな時期か。
季節感のあまり無い秘密基地も、あのむっとするような熱気は薄れ、時おり涼しい風が通り抜けるようになった。
「こーすけ君も来る?」
「部外者が学校に入れるのか?」
「招待券があれば。受付で住所と名前と電話番号を書いて、身分証明できるものの提示を求めるみたいだけど」
まあ今の時代、それくらいはしなきゃな。
「初日の午前中は私が受付だから、ボディチェックだけでパスするよ?」
「いや、通常の手続きで」
「むー」
何か不服そうだ。
「思うんだけど」
「何だ」
「私達、スキンシップ足りなくない?」
普段から仲良くしてるし、こうやって会話もしているけれど、触れることは少ない、かな?
「タマちゃんも言ってたよ?」
「何を」
「金曜に晩御飯を作りに行っても、全然押し倒してこないって」
「押し倒すかっ! ていうか、それはみゃー的にもアウトだろ!」
「まあ……そうなんだけど、ちょっと心配っていうか……」
「健全に付き合ってるのに何を心配する必要がある」
「これもタマちゃんが言ってたんだけど」
またアイツか!
「もしかしたら、特殊性癖があって、そういう状況でないとエレクトしないんじゃないかって」
エレクトをスマホで調べる。
直立すること、勃起とある。
「んなワケあるかっ!」
「でも、タマちゃんが言ってたんだけど」
どんだけタマ尽くしなんだよ!
「こーすけ君の家でトイレを借りても聞き耳立ててる様子も無いし、自分の歯ブラシにこっそり印しを付けてみたけど、使われた様子も無いって」
「特殊性癖かよっ!」
アイツは俺を何だと思ってやがる!
トイレの音ごときで興奮していたら、タマちゃんが座った後の椅子だとか、食べた後の食器だとか、それから便座──
はっ! イカン、アイツの術中に
「過去に、歩きながら素股の話をしたときだけエレクトの兆候が見られたらしくて、歩きながら素股の話をしたときだけエレクトする性癖なんじゃないかって」
狭っ! 俺の性癖狭っ!
極めて限定された条件下に
「もしかして……当たり?」
「悲しそうな顔すんなっ! そんな特殊なヤツ見たことねーよ!」
「じゃあ……私達に魅力が無いから説が有力に……」
「それも違う」
「じゃあ最後の可能性。これもタマちゃんが言ってたんだけど」
アイツは諸悪の根源か。
「自分のアレに自信が無いから、そういう雰囲気になるのを避けてる説」
「お前らを大切に思ってるから説がどうして出ない」
「え?」
「触れたいとは思ってる。でも、容易く触れられないほど大切なんだよ」
「こーすけ君……」
判ってくれたか?
「それ、このまえ看病した時にタマちゃんが言ってた、童貞らしい思考」
「うっせーよ!」
「で、文化祭はいつなんだ?」
「んー、平日なんだけど」
「じゃあ無理だな」
「ウチのクラス、メイド喫茶なんだけどなぁ」
「有給が余り過ぎてるんで、どこかで使わなきゃと思っていたところだ」
「……こーすけ君、本当は見飽きた私達じゃなくて、他の女子のメイド服を期待してない?」
「断じて無い。そもそも最近の俺は、お前ら以外の女性の存在感が無い」
「えへへ」
嬉しそうだ。
「嬉しすぎて、アヘ顔になっちゃいそう……」
やったぜ! 童貞の俺も、ついに女をアヘ顔にしてやったぜ!
「って、アヘ顔の使いどころが違う!」
「え、でもタマちゃんが」
「タマちゃん情報、知識は程々にしろ」
会話の途中でアヘ顔されたら、それはもう救いようのないオカシな人だ。
「まあよく判らないけど、それくらい嬉しいってことかな」
それは伝わってるけど、やっぱり疲れる……。
でも、二人のメイド服かぁ。
コンビニでみゃーの
「ちなみに、ノーマル、ツンデレ、妹、その他リクエストも受け付けますよー、こーすけ君」
俺の性癖はノーマルだ。
ノーマルだからこそ、
「あのね」
みゃーが俺の耳元に唇を寄せる。
「普通はノーマルだけだから、こーすけ君限定メニューだよ」
秘め事を
あー、会話の途中でアヘ顔になる気持ちって、こうなんだろうか。
何か、ふわーっとして幸せな気持ちになる。
みゃーが俺にもたらす癒しと多幸感。
どうせなら、二人一緒に──
「こーすけ君、間抜け
「うっせーよ!」
二人一緒は、童貞には難しい……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます