第61話 押しかけ看護 3
俺だけじゃなく、何故か三人でお粥を食べる。
考えてみれば、お粥なんて食べるのはいつ以来だろう?
自分で作ったことは無いし、誰かが作ったとしたら、それは母親しかいない。
つまりは、十年以上、お粥を食べてないことになる。
懐かしい、と感じた理由はそれだけじゃなくて、お粥の中に大根葉が入っていたからだ。
田舎にいるときは当たり前の物だったが、こっちに来てからは見かけることが少ない。
「みゃー、この具材は?」
「家にあったものを持ってきたんだけど、嫌いなものあった?」
大根とその葉っぱ、
いや、風邪のせいか味はあまり判らなかったのだが、それでも美味しいと感じられた。
「大根の葉っぱは珍しいな」
「近所の八百屋さんから貰うの。私の顔を見たら、いつも付けてくれるんだけど……」
そこでみゃーは何故か、少し顔を赤らめた。
「貧乏くさい……かな」
「いや、俺も今度、行きつけの八百屋のおばちゃんに頼んでみるよ」
そう言っただけで、弾けるような笑顔が返ってきた。
「孝介さん」
「何だ?」
「今夜はそのお粥のように、白くてドロッとしたものは出さないように」
「出さねーよ!」
意図的なのか天然なのか、唐突なタイミングで下ネタをぶち込んでくる。
「でも、真面目な話なんですが」
「何だ」
「正直に答えてほしいのですが」
「判ったから言ってみろ」
こちらの様子を窺うような上目遣いに、正直ドキッとする。
「みゃーと私、どっちを多く使いましたか?」
「ぶほっ!」
口からお粥が!
「出さないようにと言ったばかりなのに」
「お前が下らんことを訊くからだ!」
「それ、私も興味ある」
みゃー、お前もか!
どっちが多くとか、そんなの数えたことなんか──
何だ、この妙な緊張感は?
張り詰めた空気、射抜くような真剣な眼差し……まるで、取調室のようではないか!
「まあカツ丼でも食べてください」
「お粥だよ!」
「恥じることはありません。あなたの行いは罪深き人間の日常の一つなのです」
取調室が
「こーすけ君、恐れないで。私以外を使ってたら、ちょっとは悲しいけど……」
いや、マジで悲しそうな顔をするなよ……。
「質問を変えましょうか?」
「はい、お願いします」
なぜ俺はお願いしてるんだろう。
「私達以外を使う割合は?」
くっ、そう来たか。
ここは正直に答えた方がいいのだろうか?
そもそも俺は、こんな冗談みたいなやり取りに、どうして真剣に向き合っているのか。
「私はこーすけ君百パーセントだよ?」
おぅ、嬉しいのに、
「私は野菜百パーセン──痛っ!」
色々と問題発言なので叩いておく。
「野菜と言ってもキュウリかナスか、はたまた上級者向けのゴーヤか興味は──痛っ!」
「言っておくが」
俺が真面目に話そうとするのを感じ取り、二人が居住まいを正す。
期待と不安に満ちた目をして、固唾を飲むように俺の口元を凝視する。
「そもそも、お前らを使うことは、まず滅多に無い」
「!?」
「!!!」
いや、そんなに衝撃を受けなくても……。
「魅力が無いんだ……」
「病気だったんですね……」
片や目を伏せ、片や
勿論、二人に魅力が無いわけでも、俺が病気なわけでもない。
寧ろ逆で、俺は二人のお蔭で、精神的にも下半身的にも元気になっている。
なってはいるが……。
「
これは本音だ。
年齢とか関係無く、大切な存在を日々の妄想に使うことに罪悪感を覚えてしまう。
ただ、今日みたいに熱があると、その罪悪感も薄れてしまいそうで怖くなる。
「こーすけ君……」
みゃーは何やら感動したのか、目をうるうるさせていた。
「典型的な……童貞的思考」
「うっせーよ!」
タマちゃんは、まあタマちゃんらしい。
「でも、他人さんを使うのは、私達の存在を
くそ、みゃーはまた純粋故にメンドクサイことを。
熱で
「典型的な……処女的思考」
今度はタマちゃんの意見に賛成だ。
「でも、だって、私達を差し置いて、他の女性を見て興奮してるんでしょ? それってやっぱり悲しいし」
「みゃー、聞き分けの無いこと言っちゃ駄目。孝介さんは、犯したいだけのメスと、守りたい女性を区別してるのよ」
何か違う気もするが、まあ大きく外れてはいない。
「私は両方が欲しいな……」
「大丈夫よ。オスなんて表面上の純情を取り払ったら、守りたい女性とか言いながら、俺の女だ、なんて思って所有物のように扱いたがるから」
タマちゃんの、その男性観はどこから来たのだろう……。
「いずれ、犯した上で守りたいとか抜かすようになるから、ね?」
子供を言い聞かすような口調で、恐ろしい内容を話すなぁ。
でも、きっとそれも外れではない。
この二人を守りたいという気持ちは、他の男から、という思いも含まれているに違いないからだ。
結局は綺麗ごとだ……。
「なあ」
「なぁに?」
「何ですか?」
「そろそろ帰れ」
もう外も薄暗くなってきていた。
「なるほど、話の流れから抜きたくなって──痛っ!」
「今の俺は賢者モードだよ」
「賢者モードっ!? う、噂には聞いたことがあります。つまり、私達の知らぬ間に、孝介さんは抜いて──いたっ!」
「そうじゃなくて、もう外は暗いし、俺も熱でぼーっとしてるし、甘えたくなるし守りたくなるし、押し倒したくもなるし可愛がりたくもなるし、ありがたくて嬉しいし、とにかく熱だから、
「……こーすけ君」
「みゃー、帰ろう?」
「うん……」
何か、キツイことでも言ってしまっただろうか?
二人は神妙な面持ちで、俺の方を気遣うようにチラチラと視線を向けながら帰り支度をする。
「じゃあ、お大事にね」
「ああ」
「ちょっとはしゃぎすぎたみたいです。すみません」
「いいよ。楽しかった」
「回復したら、
最後に、また馬鹿なことを言ってくる。
でも、俺は眠ってしまったのか、この後の記憶がほとんど無い。
ただ、また何か素敵な夢を見たことだけは憶えている。
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