第26話 ジェラシー
今日が試験最終日で、明日からは試験休みに入るらしい。
後は終業式を済ませば夏休みだ。
サバトラ、チャトラ、ミケの常連と、たまに顔を出すクロとサビは、夏休み中も変わらずここに来るのだろうか。
まあ犬は人に付き、猫は家に付くというくらいだから、この場所が変わらなければ、コイツらはここに来るのだろう。
それでも心なしか、いつもより滝原に甘えている気がする。
しかも五匹勢揃いなのは初めてだ。
明日から滝原はあまり来なくなる、なんてことが猫に判るとは思えないが、とにかく代わる代わるに猫が甘えてくるので、滝原は勉強も出来ない。
「あのさ」
「なぁに?」
明日からあまり会えないのは俺も同じ訳で。
「いや、何でもない」
猫が羨ましかったりもする訳だが、かといって甘えさせてくれ、などと言えるはずもなく。
フフン、という顔をして、サバトラが俺を見た。
まさか猫にジェラシーを抱く日が来るとは。
「みゃー」
チャトラが滝原の腰の辺りに、顔をスリスリする。
くそ、見せつけやがって!
ミケが滝原の膝の上に飛び乗る。
おうミケ、お前もか!
しかもあろうことか、滝原の股間をクンカクンカする。
「ちょっと、もー」
なんて羨ま、いや、はしたない。
俺は猫を見ながら、朝から悶々としてしまった。
「こーすけ君」
「何だ」
「明日からのことなんだけど」
「あー、休みだな」
気の無い返事をする。
いや、気の無い振りだ。
「SNSっぽく、勝手に呟くメッセージ送るから」
「勝手に呟く?」
「うん。おはようとか、行ってらっしゃいとか、お休みとか」
何それ? ときめく。
「だめ?」
「いや、全然構わないけど」
連絡先を交換してから、まだメッセージのやり取りや、電話をしたことは無い。
凄まじく積極的かと思いきや、相当に遠慮がちなところがあって、どうもこの朝の時間以外は邪魔しちゃいけないと考えている節がある。
「呟きだから、返事とかいいから」
「いや、じゃあ俺も適当に呟くよ」
「ホント? やた!」
……可愛いと言わざるを得ない。
サバトラが俺を見る。
ふっ、どうだサバトラ! 文明の利器を! 人間をなめるな!
俺は心の中で声高に勝利を宣言する。
……ダメだ。
猫と張り合ってる自分に嫌気がさす。
「どしたの?」
自己嫌悪に陥る俺の顔を、滝原は心配そうに覗き込む。
「いや、何でもないよ」
まだ幼さの残る滝原の顔。
俺はそれに笑顔を返してから、二人の関係をしばらく考えた。
結局、自分に正直になれば離れることは難しいし、夏休み中に疎遠になるなんて計画も、もはや消えかけていた。
「んっ」
俺自身は、もう年の差のことは気にしないとして、対外的にはやはり問題視されるから、滝原の立場が悪くなることだけは避けたい。
隠れるようにひそやかに、という付き合い方からは逃れられないだろう。
「や、ん」
仮に友達という関係であったとしても、他人はそうは見てくれない。
ただ、俺自身の気持ちとしては、友達であろうと意識はしておきたい。
「ちょ、そこ」
時にはエロい目で見てしまうことも無くは無いが、少なくとも滝原が十八になるまでは、エロいことはしないと決めている。
だったら、恋愛感情があったとしても、それにのめり込むような状況は望ましくない。
ましてや俺は大人なのだし、滝原に対しても大人であり──
「だめぇ」
「だぁーうるさい!」
「ごめん、この子達がじゃれてくるから」
とにかく! 恋愛感情を持ちつつも、保護者と友達を兼ねる。
取り敢えずは自分の立ち位置をそう決め、エロいことには惑わされないと肝に命じる。
「なあ滝原」
「なぁに」
「夏休み、どっか行くか」
「お母さんと田舎行くよ」
「いや、そうじゃなくて、俺とどっか行くかってこと」
勿論、保護者兼友達としてだ。
滝原はきょとんとする。
ややあって、嬉し泣き笑い? みたいな表情になる。
「行く行く、行っちゃう! 一緒に行こ!」
ああ……早速、立ち位置が揺らぐ。
今のセリフで妄想してしまうようでは……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます